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先ほどの寝巻きから一転、可憐ながらもカジュアルな服装に身を包んだ歌音は、奏に手を引っ張られながら、居間に足を踏み入れた。
その眼前には洋風のテーブルの前で椅子に腰かけている二人の男女がいた。
「おとーさーん、おかーさーん、おはよー」
「ああ、おはよう歌音、奏」
「おはよう、歌音ちゃん。奏ちゃん、朝ご飯出来てるわよ」
その内の二人の男女…両親は笑顔で居間に入る姉妹を迎え入れた。
白いカッターシャツを着た父はコーヒー片手に新聞を読み、母は家族のサラダを取り分けていた。
『それでは、本日届いているニュースはこちらです』
二人が見ている大型液晶デジタルテレビに流れているのは、報道番組。
ニュースの一覧に並んでいる項目は、
『残る元首相の死刑執行は』
『愛禁法被害者のデモに数百人』
『エリアXでテロ再び X-RASEの犯行か』
『形骸化する法律群の行方は』
『全裸生活も 痣付きの子供また増加』
『鳩の涙会長が怒りの会見』
『鴉狩りか前狩り関与か 複数の男の変死体が』
『神河区清掃員襲撃死者六十人に』
-…ピッ。
母がテレビのリモコンを操作し、電源を落とす。
父も、連動するように新聞を畳む。
「あれ、お母さんテレビ見ないの?お父さんも…」
「…いいの、今日はお休み最後の日でしょ?楽しい気分で過ごさなきゃ」
「そうだぞ。たまには何も気にせずに、気楽でいることも重要だそ~」
歌音はあれ、何だか両親の様子がおかしい、と思いつつも、まあ、いいやと開き直り朝のディナーを確認する。
「えーと、今日の朝ご飯はサラダと、ベーコンエッグと、コーンシリアルと、バナナヨーグルトか~、今日もおいし…あ、ヨダレが出てきちゃった」
「もう、姉さんったらお行儀が悪いわ。けど、とても美味しそうね」
「ははは、またヨダレか~、まあそうなるのも仕方ない、だっていつも母さんの料理は天下一品だからな~、僕の自慢だよ」
「ま、三人ともうれしい事言ってくれるじゃない」
「おかげで、ミーも料理が上手になったんだよ、お父さん」歌音がえっへんと威張る。
「分かってる分かってる。母さんがいない時はよく味わってるからね~、そうだ、歌音、最近また料理の腕を上げたんじゃないか?」
「えっ、そうかなぁ~、ミー実感ないなー」
「私も、たまに姉さんのお料理を食べているけど、本当に美味しいわ。もう最高よ」
「いつかは、お母さんも歌音ちゃんの手料理を存分に味わいたいわね」
「じゃあ、また今度作ってあげるね」
歌音と父の煽てに母がクスリと笑い、歌音の自慢に両親がウキウキし、奏もまた歌音の成長を称える。
親子の楽しい団欒が、部屋中に広がってゆく…、
…しかし。
「…あれ?」
歌音はテーブル周辺を見渡す。眼前にある椅子は、五脚。現在、居間にいるのは自分と奏、両親の四人のみ。
「ウロコさん、まだ来そうに無いね」
「ええ、じゃあ、いっそ私たちで憐さんの分の朝ご飯も食べちゃいましょう?残すのも勿体無いし」
「うん、そだね。それじゃ…」
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼」
歌音たちが憐の分の朝食に手を伸ばそうとしたその時、憐がダッシュで居間に滑り込む
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