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数分も経たない内に、母が戻ってきた。
「歌音ちゃん」
「どしたの?」
「お友達が来てるわよ、ほら、いらっしゃい」
歌音は母に促され階段へ向かうと、そこには一人の、茶髪のショートカットの少女が歌音の前に姿を現す。その背丈は歌音よりも高い。Vネックシャツから覗く胸元にはあの、鳥型の痣があった。
「ジャッジャーン、みんなのおね~ちゃん金石藍良本日も只今すいさぁ~ん!おっはよ~歌音」
「あっ、あいちゃんおっはよ~!」
歌音は、少女=金石藍良(このいし あいら)と元気にハイタッチした。
「あれ、今日はみんなのお世話やバイトはいいの?」
「大丈夫、今日は近所のオバチャン達がミニ遊園地まで連れて行って面倒見てくれるってさ。バイトも今日はシフト入ってないし、ちょっと遅くまで遊べるよ」
藍良はどういう経緯があったのかは教えてくれないが、幼い頃に両親を亡くし、現在は孤児院で暮らしている。普段は、年長者(かつ唯一の高校生)として同じ孤児院で暮らす子供たちの世話とバイトに奮闘している。
「本当は、一緒に行きたかったんでしょ?」
「あ、うん、けどあたし一応高校生だしさ、うん、流石にあのミニアトラクションじゃ、ねぇ…」
歌音は敢えてこれ以上、何も聞かなかった。自分も今の会話である程度は想像した。
ミニコースターやミニーメリーゴーランドで、子連れでもない、大きな人間が、大人に引率される小人の中に混ざってはしゃぐ姿を。しかももう、高校生の思春期の女の子が、一人で…
…うん、コレは無いな。
「…でも、歌音はこの成りだから、多分混ざっても問題な…」
「ううん、それはやめとく」
藍良の振りにキッパリと返答する歌音。
その直後、藍良がまじまじと歌音の胸を見つめる。
「ん~、しっかし~、歌音さぁ、あたしの見立てからすればまたそのたわわなお乳がもっと大きくなったんじゃなぁ~い?」
何処かのスケベ親父の如くニンマリと笑いながら両手をワキワキさせ、歌音のたわわに実った乳房に迫る。
「む~、あいちゃんやめてっ!」
バチィン!
歌音が手をワキワキさせながら自分の胸に迫る藍良の頬を勢いよく平手打ちする。
藍良は、その場に倒れる。しかしその表情は…まだ笑みが浮かんでいる。
「ブフォッ…でもこれもあたしにとっちやご褒美さぁ…」
「ぶ~、いっつもぼくに会ったらこ~なんだからあいちゃんは~!」
藍良のセクハラ未遂にふくれ面の歌音を尻目に、動じぬ母が藍良に話しかける。
「藍良ちゃん、今日も元気ねぇ」
「いえいえ、おばさんも相も変わらずお綺麗で…」
「うふふ、お世辞言ったって何にも出ないわよ?」
「ん~や、お世辞じゃねぇですよぉ~、こんなにデカいお子さん二人もいらっしゃるのに、こうも若いんですからぁ~、一体どうやったらこうも立派に育つんですかねぇ~」
「いえいえ、立派だなんて、うちの子はグローバルな世界で育って来たのよ、とても追いつけないわよ」
「でもだからこそ誰彼構わずフレンドリーじゃぁ~ないっスかぁ~、特にお姉さんの方がぁ~。ほんっとうちの悪ガキにも教えてあげたい位…」
つんつん。
母との談笑に愛しむ藍良の肩を、歌音がつつく。
「ん、どしたん歌音」藍良が歌音の方へ振り向く。
「ねぇ、あいちゃん」
「ん、何?」
「…時間」
「は、じ、時間…?」
藍良は歌音に促されるようにして腕時計を確認する。と…、
「ヌォォォォォッ!?もうこんな時間!?」
「そうだよ、急がないとあの店のクレープ全部なくなっちゃうよぉ!」
「みんな、朝っぱらから並んで買いにくるからなぁ~、この時間から並ばないと売り切れちゃうのよね~!」
「早く、早くぅ~!」
時間に間に合わせようと慌てて駆け出す二人。
「じゃ、お母さん、そろそろ行くね!」
「ではおばさん、ご機嫌よぉ~!」
「あらあら、あわてん坊さんなんだから。行ってらっしゃい。遅くなる前に帰ってくるのよ~」
「「は~い!」」
二人は、足早に洋間から駆け出して行った。
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