一:練成者達の出逢い

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 「はぁ、はぁ、ちょっと早すぎっ…待って…」  「ふふ~ん、ダメだよ休んだら。急がないと置いてっちゃうよぉ~!」  早朝で、出勤、配達、ただの趣味…車道は何十台もの車やバイクが走り抜けるが、歩道はまだ人だかりの少ない商店街を駆け抜ける二人。  コンビニはとにかく、街の店舗はまだその多くがシャッターを閉めており、シャッター開けている店も、その殆どが準備中でその日の営業をまだ始めていない。  「ねぇ、あいちゃん」  「うわっ、またゴミが…掃除屋の人達も大変だねぇ」  道路には、大量のゴミが散乱していた。紙やペットボトル、空き缶はまだしも、家具や調理器具、家電、スクラップ、ペットの死骸、骨、他諸々…本来道路に転がっていること事態稀な物が、今では所々に散らばっていた。  それに唖然としながら走っていたら…。  ードンッ。  「うわっ」  歌音が、路地裏から飛び出してきた、茶髪の、小さい少女にぶつかった。二人はお互いに尻餅をつく。  「ちょっ…大丈夫!?」  突然の『事故』に驚いた藍良が、二人に駆け寄る。  「う、うん、ぼくはね…大丈夫?ごめんね」  「ん…」  無表情の、まだ10歳位のその女の子は素足だった。また、着ている服もピンクのワンピースに見えるが、明らかに大人用のワイシャツで、よく見ると袖は切り取られており、粗末に染めた物なのか、ムラがあり所々で色が違う。  しかも、  「この子…穿いてないよ…」  シャツの隙間から見えるその下には下着も、ショーツも、何も着けていない。ただシールを貼って局部を隠していただけだった。  二人共、「どうしてそんな格好なの?」、「買って貰えなかったの?」と、女の子に聞きたかったが、こういう身なりの子供は今や当たり前、黙って怪我の有無を確認することにした。  「…ああ、やっぱり怪我してる…」  幸いにも、転んだ時の傷は無かったが、彼女の足の裏はここまででガラスやら何かを踏んだのだろう、所々切創が出来ていた。両足共だ。出血もしており、彼女が渡って来たのだろう道路には、微かだが血液が付いていた。  「ねぇ、痛く、無いの?」歌音が少女に尋ねる。  「うん、いたく、ない…」  弱々しいその返答に、二人は少女が我慢している事を察した。  「ねぇ、歌音」  「ん、何?」  「この子、こんな所に痣がある…」  二人は彼女の踝に、あの鳥の形をした痣を見つけた。  藍良の体にある物とは形は違うが、踝にあるそれは、今にも翼を広げて飛び立ちそうだった。  「…っ!」歌音は、ふと思ってしまった。  まさか、この子も…なのか?  この子も、一糸纏わぬ、産まれたままの姿で、あの暗い檻の中に閉じ込められ、あの心の醜い、白装束の男達から、酷たらしい拷問を受けたのだろうか?  あの、黒髪の男の子が味わったのと同じ、死と隣合わせの地獄の日々を…。  「…ううん、其れ処じゃ無い!」  もし、この子のこの怪我が、将来命に関わるようなものだとしたら。  もし、この子がそれで体が不自由になって、もう二度と自分の足で駆け回る事が出来なくなってしまったら…。  それを考えていたら、歌音には、暗い気持ちになっている暇は無かった。  「…あいちゃん!」  「えっ、ちょっ、ここで急に!?」  「ちょっと痛むよ、ごめんね」  「えっ…」  歌音は怪我をしている足を掴み、目を閉じる。  「…よし!」藍良は少し慌てながらも周りを見回し、自分たち以外の人間がいない事を確認する。  「歌音、まだ!?」  「うん、もう、行けるよっ!」  歌音の両手から、光がほとばしり、少女の体を包む。  着ていた服の形が、変わってゆく。  足の傷も、引いてゆく。  「しっかり、目を瞑っててね」  少女は歌音に促され、両目を閉じる。  「儀式」の準備が、整った瞬間だった。  「よーしっ、行くよ!」  ーいたーいのいたいのっ…とぉーんでけぇ~!  その光は歌音と、少女の周りを包み込み、やがて二人は見えなくなる。  「う~ん、いつ見ても凄いなぁ…」  藍良は圧倒されるが、驚かない。  いたいのいたいのとんでいけ。  子供っぽい合い言葉と共に光が放たれ、全てが治る…いや、全ては言い過ぎか。  -シュウウウウウ…。  光が、止んだ。  そこにいたのは歌音と、着ていた服こそ若干薄手の綺麗なワンピースで、痣を隠す目的もあったのか、靴下と靴も履いていたが、間違いなくあの少女だった。  「もう、目を開けていいよ」  歌音に言われて目を開けた少女は、靴と靴下を脱ぎ、両足の裏を確認する。  「いたく…ない、なおってる!」  少女は満面の笑みを浮かべた。足の裏の傷は、綺麗さっぱり無くなっていた。  「…ぴっかりさん…ぴっかりさんがきてくれたんだ!」と、少女は手を挙げ、はしゃぎ回る。  その表情は、本当に嬉しそうだった。  「ありがとう、ぴっかりさん!」  少女は、ダンスをするかのように跳ね回り、喜びながら二人の元を去って行く。ふわりと舞ったスカートからは、さっきまでシールだったのがしっかりとした下着になっていた。
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