一:練成者達の出逢い

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 今からおよそ、かつて存在した政党『国家修正党』が十二年前に成立・施行した、『愛禁法』…正式名称『自然環境保護のための資源保全法』と呼ばれる法律がこの国…いやこの地、アメリカ合衆国・ジパング州を壊した。政府は己の権力を誇示し、世のため人のためと偽り、国民から多くの物を奪い去った。  今や、愛禁法と呼ばれるその法律は、元々年々悪化する自然環境を保護し、かつ、やがて枯渇する資源の消費を抑制し、再生可能エネルギーの開発・使用を促進するために立てられた物だった。  これにより州民…当時は国民の、環境と資源の保護意識を高め、いずれ国際社会においても、その意識を普及促進する事を目的としていた…、  …はずだった。  「そのせいで、ここにすむ人達は、酷く苦しめられたんだよね…」  「しかも、その標的にされたのはあたし達子供…」  その内容は、歌音が憐れみ、藍良が怒る程の物だった。  この法律は何処かの漫画や、アニメといった各種創作物で見るような悪法で、アニメ、漫画、ゲーム、玩具、甘味、公園、テーマパーク…主に子供の好きな物を中心とした娯楽物、諸侯品ほぼ全てを『環境の敵』、『資源消費の温床』と弾劾し、それらを『資源保護』、『法律違反』の名目で、規制・弾圧し、それを作り、与えた者にも容赦なく罰を与えた。  反抗した為に、大勢の死者も出た。  更に悪いことに…、  「困ってる人や、弱い人を、助けようとして、捕まったり、殺されちゃったりした人もたくさんいた…」  「うん、あたしも散々見たわ…」  国は、弱肉強食を国民に強制したのだ。  政府は、これまでに自分たちが国民を護るために立てた他の法律が、旧保全法の力を阻害しないよう、条項を書き換え、その力を抑制した。全ての法の上に立つ、憲法の存在も無視し、旧保全法の暴走を助長した。  時の権力者達も、弱きを助けることを禁じた代わりに、私腹を肥やす事を奨励した。手を差し伸べる者を処罰し、助けを求める者の命を奪った者にも、褒美を与えた。英雄として称えた。  こうして国は、救いの手を伸ばすことを、一切禁じ、更に全てを剥ぎ取った。  何があっても、国は手と手を取り合うことを、這い上がる事を許さなかった。独自にやることすらも。  弱者を切り捨て、強き者のみを生かし、この州の先住民は数を、半数以上に減らしてしまったのだ。  「ここまでが『愛禁法事変』だったんだよね」 「そう。それが国際社会に公になって、国連で決議されてアメリカ処か、色んな国からも酷く叩かれてね…」   「で、色々あって、『愛禁法戦争』っていう争いを、アメリカと二国間だけでしちゃったんだよね…」  その争いも、たった一年近くの期間だったとはいえ、  戦火で花は踏みにじられ、  木々は倒れ、  大地は焼かれ、  空は黒く、  海も血で赤く染まり、  あらゆる建築物は鉄と、コンクリートの塊に砕かれ、  生きとし生ける物は、物言えぬ肉の塊に変貌していった…。  核をはじめとした大量殺戮兵器こそ使われなかったものの、それでもかつての第二次世界大戦をも超える犠牲を被った事で『ニホン』は、その国名と共に『国』としての形を棄て、『ジパング州』となって延命する道を選択したのだ。
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