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「ふう、これであいつらに良い薬になるかな」買い物を終えた少女が二人の元に戻ってきた。
と…。
ヴェッ。
少女の今持っている『それ』を見た歌音が、思わず閉口する(藍良:うん、その気持ち分かるよ…)。
少女は右手に二つのビニール袋をもっていた。一つは二人にあげたフルーツクレープが入っていて、まだ自分用(本人談)のクレープが入っている物と思われるが、もう一つは知り合いにあげるために買った、クレープの名を語ったゲテモノ増し増しミニブーケ二束を入れたもの。こちらのみトッピングで更に増量したイナゴの佃煮(そもそもこのクレープのメイン食材)と、流石に残りのイナゴ全部は勘弁してもらったのか、ミルワームやサソリが何十匹も顔を見せていた。
…そう言えば、虫さんを美味しそうに食べてた子もいたっけ…。
ほんの、ほんの少しだけ悪夢の事を振り返ってしまった。
自分はあまり、経験したくない。
「まあ…ワタシも虫は好きだから、普通に食べるよ。今回はパスしたが」
今の発言を耳にして、マジか。と、二人は思った。
特に歌音は、こんな綺麗な人が、こんな物食べるのかと思うと、少々ゾッとした。
「まぁ、受け付けない奴もいるからな。仕方は無い」
「でっ、ですよねぇ。ぼく達も普段は、ソレは頼みませんし」
「…ぼく?」
歌音との会話の中で、少女が少し響めいた。
「…どうしたんですか?」
「…いや、何でも無い。気にするな」
歌音は何かの異変を感じていた。
何故、一瞬ごもったのか。
聞きたかった。でも聞けなかった。
「…クレープ先買ってて、悪かったな。じゃ」
少女は二人の前から去って行く。
(けど、どうして最初にぼくの事を呼んだんだろ)
少女の行動に違和感を感じた歌音は意を決して「あの」っと、彼女を引き留める。
「ん?」少女は歌音の方に振り向く。
しかし、理由を聞こうとした歌音は口がごもり、結局、出た言葉は、
「クレープ、ありがとう」
その一言だけだった。
それを聞いた少女は「…そうか」と、ただ返すと再び正面を向き、去って行った。
「変わった人だったね。クールそうなのに」
「うん…」
だが、歌音は確かに感じていた。
あの既視感。
会話の中でのあの響めき。
そしてなにより、女性ながらも夢の中の少年に、明らかに似ている特徴。
気になって仕方なかった。
そして、一方の少女も…。
(…『ぼく』…人違いか)
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