プロローグ

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 怒りと恐怖のあまり、男の一人がそこに落ちていた鉄パイプを手に取り、仲間の顔面に一撃浴びせた。男の顔は大きく歪み、前歯の何本かが折れ、鼻からも、おびただしい量の鮮血が流れ出した。やがて男は白目を向いて前のめりにして倒れた。  ほかの男たちも、あらかじめ持っていたナイフや拳銃を手に取り、ついに、仲間同士で殺し合いを始めた。一人は刃物で切り付け、また一人は銃を乱射し、また一人は鈍器で殴りつけ、仲間の命を奪っていった。  (いや待て、何かが、おかしい…)  男の中の一人が恐怖で混乱した末に、同志討ちを始めた仲間達をよそに、頭脳を回転させて、状況を判断しようとしていた。もし、天罰が下ったにしても、あのガキに下る筈。なのに、何故、自分達の方に犠牲者が出たのか。そもそも、神が裁きを下したにしても、これは、どう考えても都合が良過ぎるし、早すぎる。では、こちら側にガキを助けようとする人間がいたのか…いや、在り得ない。死んだ奴等を含めても、あのガキを助けようなんて奴は、この中には一人もいなかった。いなかった筈だ。もし仮にそんな奴が居たとしても、今更こんな攻撃を仕掛けるなんて、まず在り得ない。それに、最初に自分たちの側に死人が出たとき、そいつの傍にあのガキの死体が…。  「…待てよ、じゃあ、まさか頭を割りやがったのは…」  あの、自分達が殺した、子供。  己の思考をフル回転させて導き出した、その答えに、男の顔が青ざめた…あり得ない。あり得てほしくない。あのガキは、もう死んだ筈だ。自分たちの手で、「退治」したはずだ。それに、もし生きていたとしても、あんな殺し方は出来ない。頭を縦に切り裂くなど、あんな子供にはまず…少なくとも自分たちは立ち上がっているし、あのガキは寝ていた。そもそもこの身長差だ。殺せるはずがない。殺すならまず、足を狙って、倒れたころを見計らってそれから頭を狙う。そうでなければ、子供が大人を殺すなど、まず無理だ。なのに、やられていたのは頭だけだった。脚はやられていない…、  「そうだ…殺せる、筈が無い。殺せる、訳が…」  ーなっ…何だ…ぎゃああああああっ!  ーたっ、助けっ…ぐわあああああああっ!  突然、男の耳に、無数の人間達の、断末魔の叫びが飛び込み、その意識は現実世界に引き戻された。
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