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第五話
いつだって授業はサボりたいものだけど、金曜日の昼休みほど思うことはない。あと半日じゃないかと言うけれど、そのあと半日がとてつもなく長く感じられるのだ。桃はさらに薄くなった青色の空を見上げて息を吐いた。あと数日で十一月に入ろうとしていた。コートを着ても風があれば寒い季節になった。屋上でお弁当を食べている人は誰もいない。
と、ベンチの上に置いた桃のスマホが光った。隣に座っている葵のスマホも同時にだ。お弁当箱をベンチの上に置いて、桃はグループメッセージを開いた。
「なんて?」
「今日の放課後は映画に行きたいって」
尋ねる葵に画面を見せた。葵のところに来ているのも同じ綾からのメッセージのはずだ。葵が微笑んで頷くのを見て、桃は“OK”と返した。綾からはしゃぎまわるおやじっぽい犬のスタンプが。続いて明日香から“決まり!”とメガネを光らせるやっぱりおやじっぽい犬のスタンプが返ってきた。
「なに、この犬」
「綾さんと明日香さんのセンスって不思議よね」
呟いて、桃と葵は顔を見合わせて笑った。
葵が転校してきて、翌日にはケンカをして。その日の放課後には綾と明日香と仲直りした。
明日香が桃を遠ざけようとした理由を、桃はいまだに聞いていない。ただ葵が明日香に何かを耳打ちした瞬間、
「辻さんって……かなり性格悪いでしょ」
明日香が唇を噛みしめて涙目になるのを見て、聞かなくてもいいかと思ってしまった。そのあと明日香がちゃんと謝ってくれたというのも大きいけれど。一体、葵は何を言ったのだろうか。
なにはともあれ、桃が望むとおりに綾と明日香とは友達に戻れた。葵はと言えばするりと、まるで最初からそこにいたかのように桃たちの輪の中におさまった。ギリギリのところで完全に傾かずに済んでいた三人の関係は、葵が入って大きく揺らいで、四人という形で安定したのだ。
いや、四人というのは少し違うかもしれない。
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