第二話

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 目的の店は表通りから一本、路地を入ったところにあった。表通りに並ぶ店と比べたら落ち着いた雰囲気だけど、カントリー風の可愛らしい内装に惹かれて訪れる女性客は多いようだ。  店内に入ると白いワイシャツに丈の短いブラウンのエプロンを付けた店員が四人席に案内してくれた。綾が真っ先に奥の二人掛けのソファに腰かけ、明日香も早足でその隣に腰かけた。自然、桃と葵が並んでイス席に座ることになった。  メニューをテーブルの上に広げて四人でのぞきこむ。この店のパンケーキは薄めの生地に生クリームやフルーツ、ナッツといったトッピングがたっぷりと乗っているものが主流だ。 「一番人気ってどれだっけ?」 「これこれ! 生クリームがおいしいって評判なんだよ」  綾が指さしたのも生クリームが山のように盛られ、その上にイチゴやマンゴー、キウイといったカットフルーツがトッピングされたメニューだった。イチゴと生クリーム、黄桃と生クリームといったフルーツ単品と生クリームのメニューに比べると贅沢なお値段だ。お財布事情を考えると一番人気のフルーツ全部乗せは桃にはつらい。 「でもイチゴかオレンジか、決められないんだよねぇ」  桃は思わずうなり声をあげた。 「うん、わかる。マンゴーも黄桃もキウイも全部食べたいもん」 「それ、完全に決まってるでしょ」  腕を組んで悩んでいるポーズを取る綾をつついて、明日香がくすりと笑った。 「バレたか! 私は全部乗せ! ――葵は決めた?」  綾は弾かれたように笑ってから、葵の顔をのぞき込んだ。突然、話を振られたことにか。下の名前を呼び捨てにされたことにか。葵は驚いた表情を見せたけれど、すぐにメニューの右端を指さした。 「オレンジとビターチョコソースにします」  そこに写っていたのはカットしたオレンジをトッピングし、さらにその上からチョコソースを掛けたシンプルなパンケーキだった。  ――生クリームが評判だって聞いたばっかりなのにマイペースだなぁ。  葵の横顔を見つめていると、 「桃はどれにする?」  桃の視線に気が付いたのか。葵がメニューを桃に向けた。葵に間近で目をのぞきこまれて、桃の顔が勝手に熱くなった。と、――。 「私はイチゴとビターチョコソースにするよ」  明日香の声に桃はハッと顔をあげた。 「綾の生クリーム、味見させてね」 「うん、そっちのも味見させて!」  明日香と綾が笑顔で頷きあっているのを横目に見ながら、桃はメニューを引き寄せた。これでメニューを決めていないのは桃だけだ。綾と葵と明日香の視線が桃に集まった。早く決めないと。焦りながらメニューをざっと見まわして、 「じゃあ……私も綾と同じので!」  自分自身の意思と財布事情を無視して、桃はそう答えていた。
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