第二話

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 店員が運んできたパンケーキを見て、 「なにこれ、すっご!」  綾が歓声を上げた。メニューの写真と違わないどころか、むしろ多いくらいの生クリームに綾はスマホを構えて子供のように瞳を輝かせた。生クリームの白に色とりどりのフルーツがかわいい。 「こんなに食べきれるかな」  明日香が綾に苦笑いを向けた。 「どうだろう! 明日の体育はマジメにやらなきゃだね!」  なんて言いながら、綾はスマホを置くと、フォークとナイフを構えて生クリームを口に運んだ。 「おいしい~。これならいくらでも食べれる!」  綾はフォークをくわえたまま、うっとりと目を閉じた。綾の横顔を見つめて微笑んでから、明日香もチョコソースのかかったイチゴを口に入れた。 「うん、おいしい」  幸せそうに呟く明日香を横目に、桃はパンケーキを撮るのをやめてスマホをカバンにしまった。ふと見ると、葵はすでにオレンジの乗ったパンケーキを四分の一ほど食べ終えていた。  ――いい匂い。  オレンジの爽やかな香りとビターチョコの香りが桃の鼻をくすぐった。 「桃!」  大きな声で呼ばれて、桃は慌てて綾に顔を向けた。綾は満面の笑顔で桃の前に置かれているパンケーキを指さしていた。 「桃も早く食べなよ!」  ほらほら、と促す綾の横で、明日香は黙々とパンケーキを口に入れていた。桃を見ようとしない明日香から目をそらして、 「うん! ――甘くておいしいね!」  桃は生クリームを頬張って笑った。  パンケーキと一緒に生クリームを食べ、フルーツと一緒に生クリームを食べ。ひとしきり感想を言い合ったところで、 「綾、交換しよう」  明日香が自分の皿を持ち上げた。 「もち! イチゴのもおいしそう!」  綾は頷くと自分の皿を明日香の前に押しやった。 「綾のもおいしそう」  お互いのパンケーキを交換して笑い合う綾と明日香を眺めながら、桃は無心でパンケーキを頬張った。どうして綾と同じのにしてしまったのだろう。同じものじゃ交換してとは言えない。明日香が桃と交換する理由もないじゃないか。  ――前はどうしてたっけ。  明日香の方から食べなよと言ってくれてたのか。桃の方からちょうだいと言っていたのか。意識なんてせずにシェアしていたはずなのに。  あまりじろじろと見ているのも変かと思って桃はぎこちなく俯いた。と、――。 「ねぇ、桃。私も味見させて」  不意に葵に言われて、桃は目を瞬かせた。無意識にフォークをくわえて、あ、と呟いた。葵はまじまじと桃の顔を見つめたあと、唇を尖らせた。 「……ごめん。食べちゃった」  たった今、口に入れたのが最後の一切れだ。桃は首をすくめて反省してみせたが、葵の不機嫌そうな表情は治らない。桃は苦笑いで綾と明日香に顔を向けた。助け舟を出してくれるか茶化してくれるかと期待したのだが、二人は桃と葵の方なんて全然見ていなくて。 「ちょっと、失礼!」  桃は逃げるようにお手洗いに立った。
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