第一話 始は死から

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第一話 始は死から

   ――勇者の祠 「はあ、はあ……」  長い、長い階段を下り、たどり着いたその先。  部屋と呼ぶには余りにも大きい講堂のような場所。  ローマの建造物を思わせるような柱と壁。  中央奥には祭壇のようなものが設置されている。 「……この日を、この時を待っていました」  豪華な装飾品。  貴賓に満ちた衣装。  高貴な雰囲気に包まれた少女は  喜びと期待と不安を胸に一歩一歩祭壇に歩みよる。 「これより、勇者召喚の儀を行います」  少女は身に着けていたペンダントから赤く輝く宝石を取り外す。  そして、綺麗に加工された宝石を、それと同じ形をした祭壇の窪みにはめ込んだ。  少女は胸に手を当て、祈るように――唄うように言う。 「勇者よ、応えたまえ。この地トライアングに舞い降り、そして救いたまえ」  赤い宝石が徐々に輝きだす。  それに呼応するように前方の魔法陣も光りだす。 「ウェストラント第一王女。アリス・セシリア・シャルロット・ド・ウェストラントの名において命ず。聖なる導きにて勇者よ来れ!」  赤い宝石は一番の輝きをみせたかと思うと急に光を失う。  同時に祭壇前方の魔方陣より閃光が走った――。  アリスは閃光に目を眩ませるが、すぐに魔法陣へと目をやる。  アリスにとってこの儀式は国の――人間の存亡を賭けたもの。  この場所に来るだけでも何人の兵士が命を落としたか。  徐々に魔法陣の光は弱くなり何も存在しなかった空間から人影が姿を現す。 (せ、成功?)  しなければ困る。  国のため。  民のため。  世界のため。  光が完全に消失しアリスが目に捉えた人影は陰鬱な雰囲気を醸し出し触れるだけで崩れてしまいそうな男だった――
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