第一話 始は死から

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   ◆           暮井九郎(くれいくろう)は死んでいた。  もちろん、肉体的な意味ではない。  社会的な意味で。  精神的な意味で。  大学は中途半端に辞め、バイトも2か月前に辞めた。  家賃2万の安アパートに一人暮らし。  虎の子の金を食いつぶし、無い金を娯楽に費やす。  部屋を出るのは、切れた煙草を買いにコンビニによるくらい。  深夜。  今日も煙草を買いにいつものコンビニに向かう。 (面倒だ)  面倒くさい。 (しんどい)  体が重い。 (死んどい)  死ねばいいのに。  煙草を購入し、ついでにトイレを借りた。  用が終わり手洗い場で手を洗う。  鏡に映った自分の顔はまさに死人。 (よく小説に、死んだ魚の目しているとか――) (光を失っている、なんて表現があるけれど――) (ありゃ嘘だな)  他人となんら変わりない。  普通に光る、普通の人間の目。  比喩表現なのだから当たり前だが。  九郎は無意味に鏡に手を当てる。 (吸い込まれた先は不思議の国でした――)    なんてことはあるはずもなく。  残ったのは指紋のみ。 (帰るか)    帰れば、待つのは、怠惰な日常。  ただ普通に帰るのもつまらない。  ふらふらと深夜の街を徘徊する。  知らない道。  知らない路地。  知らない場所。  知らない袋工事に辿り着いた時。  九郎の目の前には黒い球体が浮かんでいた。  なんなのだろうこれは。  奇妙で。  不可思議で。  得体の知れない。  卵)  エイリアンが生まれ惨殺。  化け物)  喰われて瞬殺。  扉)  異世界への――扉。  特に警戒心は無かった。  喰われようが。  食われようが。  その他だろうが。  なんだってよかった。  心が求めていたのは。  ただ、異常な事だから。  だからこそ、あっけなく――未知の物体に触れた。  球体は赤い光を放つと巨大化し、九郎の体を飲み込んでいく。 (2番が正解かな)  九郎の視界は闇に支配された。
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