月光書店

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 ニュースを見ていた父さんが、和室へ引っ込む音がした。学習机の蛍光灯を消し、私は表へ出る準備をする。  静まり返った居間。ビーズ暖簾をちゃらちゃら鳴らさないように、息を潜め玄関へ進む。  誰も起きて来ませんように。  玄関のドアは絶対にガチャリと鳴るし、防風室の引き戸もカラカラと鳴る。響いたら犬たちが吠えるかも、と慎重に鍵を開け、ゆっくりゆっくり、少しずつ扉を開ける。  ボアつきパーカーの前を掻き合わせ、冷たい夜気の中へ躍り出る。  砂利を踏みしめると足音ははるか彼方まで反響した。倉庫へ回って自転車を出す。  木立を挟んだ隣家も、門灯以外、全ての光を消している。  ひゅううおう、と風が吹き、額が冷えていく。畑に張り巡らされた鹿除けネットが下手な口笛のように鳴った。先日まで元気に啼いていた秋の虫たちの声は、もうすっかり絶えていることに気づく。  ドキドキと鼓動が高まり始めたとき、ちょうど流れていた雲が切れ、白く強い月光が射す。 「わあ。まっしろ」  お月見の絵で、月は黄色く塗られるけれど、この目で見る満月は白くて冷たい。なのになぜか心を高ぶらせる。 「銀色とも違う」  つぶやきながら、道を急ぐ。  待ち合わせは町の駅だ。22時を回り、もうすぐ夜汽車が通過するだけの無人駅。
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