月光書店

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「冬になる前の月は、きれいだね」  女店主は、タバコをもう一本咥え、私とめーちゃんと一緒に、本箱に背を向けて、しばし月の柔らかな光を眺めた。  その4週間後には、雪が降った。学習机の下で足を擦り合わせては、勉強の手をとめ、窓の外を眺めた。雪がガラスを叩き、暗い夜空に強い風が吹き荒れていた。めーちゃんも私もテスト勉強に忙しく、月光書店に行こう、とはお互い言わなかった。こんな冷たいつむじ風の夜に、本屋が開店しているとも思えなかった。  結局、中学を卒業するまで、月光書店に行くことはなく、私とめーちゃんの間でときどき、また行きたいね、と言い合うだけの存在になった。  雪解けとともに私は札幌へ、めーちゃんは旭川へ進学した。  帰省のタイミングがあったのは最初のゴールデンウィークだけで、あっという間に大学進学の季節を迎えた。  めーちゃんがオーストラリアの大学を受けると風の噂で聞いた。英語はそんなに得意じゃなかったのに、と私は驚き、ちくりとした寂しさを感じた。  めーちゃんから見ても、札幌で友達のできた私は、少し遠い存在になっていただろう。お互いの世界が、別々の窓を開いていき、いつの間にか、違う景色のなかにいた。  札幌で知り合った子のなかに、地元のとなり町出身の子がいた。  女子のグループのなかでも大人びた雰囲気で、私のことを気に入り、何かとおしゃべりに花が咲いた。  ある日、どこの本屋が好きかという話になり、 「深夜の本屋、来なかった? 駅前に車に本を積んでくるの」  と尋ねてみたが、 「え、なにそれ? たこ焼き屋さんみたいだね」  と笑われてしまった。  笑いながら、めーちゃんのことを仄かに思い出した。あの時のマドレーヌの味も、月を見上げたときに浮かべていた、どこか切ない笑顔も。  そういえば、あれ以来、月が黄色く見えたことがない。あれは、何がどうなって、黄色く見えていたのか。考えてもさっぱりわからず、いつの間にか、疑問自体を忘れていった。
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