月光書店

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そこに、月に数回、移動販売の本屋が来る。  都会から遠く離れたこの地域の町を点々とし、最後に着くのがこの町らしい。  そう教えてくれたのは、本好き仲間で親友のめーちゃんだ。  私たちは、学校でずっと図書委員をしている。小学校から中学校になるまでずっと。  最近、町で一軒だけの本屋が潰れてしまい、ふたりで心を痛めていた。  夜遅いから、出掛けるのはこっそりになってしまうけど、新しい本が欲しい。  きっと母さんに言ったら、 「通販じゃだめなの?」  と聞かれてしまう。  通販でも、新刊は買える。でも、背表紙の並ぶ本棚が観たいのだ。  図書館の手垢のついた、古い紙の匂いのする薄暗い場所じゃなく、煌々とライトアップされた、まだ誰のものでもない本たちの、私を読んで、と囁く声が聴きたいのだ。  月明かりの道はやがて街灯のともる町の中心部につながってゆき、小さなスナックが営業しているだけの商店街を過ぎる。  道を歩く人は誰もいない。第一、もうすぐ初雪の降る季節になるのだ。いくら月が綺麗でも、そぞろ歩きには適さない。
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