月光書店

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 自転車をぐいぐい漕いで、駅の前へ着いた。  駅の待合所の照明も落ち、建物の外、薄闇のベンチでめーちゃんが立ち上がり手を振った。丸いメガネに、ひょろりとした体つきですぐにわかる。 「ゆきち! 遅いー」  ゆきち、は私のことだ。諭吉、ではなく、雪絵(ゆきえ)だからそう呼ぶ。 「ごめん、ごめん、父さんがずっとニュース見ててさ」 「ゆきち、寒くない?」  めーちゃんは茶色のショートダッフルに、グレーのマフラーまで巻いている。 「寒い! 月光書店、まだ?」  私たちの間で、移動販売の書店は、『月光書店』と勝手に名付けた。昔のヒーロー『月光仮面』みたいだから。 「今日は遅いみたい。4週間に1回くるから、今日のはずなんだけど」  と、めーちゃんは手をすり合わせる。私は自転車を傍に止める。 「遅くなりすぎたから、明日にする、とか、ない?」 「それはないと思う。ほら、あそこの車も、あっちも、待ってるしょ?」  よく見ると、駅の広い駐車場に、ぽつぽつと車が停まっていて、その中に人影が見える。そのうちのいくつかは、ブルーライトに顔を照らされていて、 「大人はスマホで情報を見てるから」  と、めーちゃんは推理し、そのうち来るよ、と言った。 「それより、マドレーヌ食べる?」 「食べる!」
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