月光書店

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「冷えたから少し固いけど。紅茶もあるよ」  肩掛けバッグから、薄いポリ袋と水筒を取り出す。めーちゃんのママはお菓子作りが趣味で、よくシフォンケーキやクッキーを焼く。ただし、いつも少し固くて甘い。  マドレーヌは硬めのアルミカップの中、やはり固く焼き締められている。めりめりと剥がして、少しずつ口に運んだ。 「ねえ、ゆきちは進路出した?」  めーちゃんは、紅茶をふうふう冷ましながら聞いた。 「出したよ。やっぱり札幌の高校受ける。寮だけど、週末は帰ってこられるし」 「滑り止めは?」 「私立になる……だから絶対合格しないと」  隣の市の私立高校は、正直、学力レベルは低い。卒業生の8割が地元に就職する。私は大学に行きたいから、少し遠いけど札幌まで出ることにした。 「すごいなあ」 「でも、まだ父さんがあんまり賛成じゃないみたいでさ」  というか、そもそもほとんど相談できていない。両親は乳製品を扱う会社に勤めており、私には農業高校に行って欲しいと、本心では思っている。汽車を使えば、家からも通える。
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