月光書店

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 ふたりともつい、黙り込んでしまったが、すぐにめーちゃんが、ぎゅっと目を閉じて、   「あーあ!」  と叫んだ。駅全体が声で震えるほどの大声で、私は、ひゃあ、と声をあげる。  めーちゃんは、ふん、と鼻息を吐き、続けた。 「ずっとここにいられたらいいのに!」  すかさず私が、 「本屋ないですよ?」  と突っ込む。ふたりであはは、と笑い崩れた。  ちょうどその瞬間、道の先から、不恰好なワゴン車がこちらを照らした。ぴかっと金色の光。 「来た」  めーちゃんが立ち上がる。光はどんどん大きくなり、私たちの目の前で停まった。  バタン、とドアが開き、咥えタバコの髪の長い人が、さっとアスファルトに降り立った。  こんばんは、という言葉が喉まで出かかったが、その人はこちらを見向きもせずに、作業に取り掛かった。ワゴン車の荷台の部分に設けられた大きな窓を開き、明かりをつけると、後ろの荷台から、大きな折り畳みテーブルを出し、テーブルクロスをかけ、木箱に入った本を積み上げていく。軽々とやってのけているけれど、チェックのシャツにダウンベストを着たその人は、どう見ても女性だ。  頬がこけ、長い髪は暖色のライトに透けてかなり茶色い。筋ばった手は魔女を思わせるほど大きい。
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