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私たちは、彼女の無駄のない動きを見守りながら、そろそろと近づいていった。
車で待っていた大人たちも、ゆっくりと集まり始める気配がした。明かりに集まる虫のように、じわじわ、吸い寄せられていく。
店主の女性は、私たちの方は見ずに、本を整え終わると、運転席の傍に作ったレジ用のテーブルの後ろに、パイプ椅子を置いて座った。「いらっしゃいませ」も「こんばんは」もない。
戸惑っていると、めーちゃんが私より先に本棚に手を触れた。
この町が最後だからか、本の品ぞろえは偏っていた。雑誌の類は一冊もなく、漫画もない。出版社がバラバラにならぶ文庫本以外は、分厚くて難しそうな小説の単行本、それから動物の写真集、旅行のガイドブックが目立っている。
めーちゃんに続いて、私も本棚に手を伸ばした。タイトルと著者名の組み合わせで、面白そう、と思った本の上端に軽く爪をかけ、しゅっと引き抜く。文庫の後ろには簡単に内容を説明する文章がある。そこを読んだあと、著者の顔を見る。
どうしようかな、と思いながら丁寧に本を戻す。
そんなことをしてるとめーちゃんも周りの大人も、女店主も視界から──いや世界から消える。
限られたラインナップの中から、買うか買わぬか、買って読んだら自分にどんなことが起こるのか。だんだん、胃の下あたりがうねるように苦しくなる。
迷う。どれか1冊なんて決められない。それとも2冊?
パーカーのポケットからパールピンクのがま口を取り出して、中身を確認する。千円札1枚と、百円玉が4枚、それから、5円玉、1円玉。
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