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めーちゃんを見やると、うーん、と悩みながら、指をうろうろさせている。
大人たちは次々に新刊の小説を何冊も重ねて、女店主の方へ持っていく。お会計のやりとりの声が途絶えると、本屋には私とめーちゃんだけになった。
女店主は寒そうに肩をすくめて、そっぽを向いている。あんたたちが帰らないと、店を閉められないじゃないか──暗にそう言われている気分で、しんとした空気のなか、何度も背表紙に視線を泳がせ続ける。
そうだ、と思い付いて、私が静寂を破った。
「お勧めはありますか?」
女店主は、きょとんとこちらを見た。それから記憶を探るような目をしたあと、
「ぜんぶ、お勧め」
とやや投げやりに答えた。私は質問したことを後悔し、
「そうですか」
と視線を本棚に戻した。静寂だと思っていた周囲に、エンジン音のもやがかかっていく。
私はまだ子供なのだ。大人にとっては、質問に答えるかどうか、気分で決めて差し支えないと思えるほど軽い、子供という存在なのだ。
悲しさと悔しさに黙ると、店主は金庫の前を離れ、車の後ろへ回った。
しばらく、ごそごそと荷物を漁る音がし、あー、としゃがれ声がした。それから、軽い舌打ちと。
私はこの隙に帰ってしまおうかと思ったが、めーちゃんは一冊の単行本を抱えていて、それもできない。
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