月光書店

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「めーちゃんは、それにするの?」  尋ねるとめーちゃんは、生真面目に頷き、 「面白そうだよ」  と猫が空を見上げる表紙を掲げた。 「そっか」  めーちゃんが気に入った本があったことに、少し気持ちが慰められた。  気をとりなおして、写真集を買おうかな、と値段を見ていると、女店主が髪をかきあげながら、傍へやってきた。 「これは読んだかい」  それはフランスの作家が書いた有名な童話だった。主人公が星々を旅していく。私が首を振ると、 「いま読まなきゃ、次に手に取るのは何年も先になるよ」  女店主は表紙を軽く指で叩きながら、予言めいたことをいう。確かに、ずっと読んでみたいと思っていたけれど、「童話だから」と後回しにしていた。 「月夜に選ぶにはいいんじゃないかい?」  と、彼女は顎をしゃくった。  見上げると、広々とした田舎の夜空の一番高いところに、満々と光をたたえた月が光っている。 「あれ、黄色い」  さっき見たときは白々としていたのに、今はふっくらと暖かみのある黄色になっている。
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