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「おはよー。ギリギリ選手けーん」
「す、すみません……」
今日の相方のスタッフーー井部奏真は、笑って哉泰に店内で提供している麦茶を渡してきた。
遅刻寸前になったことを謝りつつ奏真から麦茶を貰い、一気に喉に流し込む。
「もう一杯飲む?」
「……っはあ。大丈夫です。ありがとです」
5つ歳上の奏真とは、職場で一番仲がいい。
趣味や好みは違うけれど、奏真の温厚さや哉泰の性格が互いのちょうどいい距離感となり、意気投合した。
「井部さんがこの時間て珍しいッスね」
「うん、急遽設楽さんから連絡があってね。午後帯の穴埋めとそのまま深夜だって」
「えげつな」
設楽とは店長がいないこの店舗の仮のシフト管理者である。
因みに奏真と設楽は大学の先輩と後輩の間柄で仲がいい。
まかないを食べながらさらっとえげつないシフトを云い渡してくる。設楽はそれぞれの事情を慮ってはくれるが、同時に駆使もしてくる。
「深夜って何時までッスか?」
「5時かな。次がくれば」
「わお、次誰予定?」
「さあ?」
正社員という肩書きの職員がなく、アルバイトやパート職員のみでなんとか維持しているこの職場は、巷で有名のブラック企業である。
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