月虹が見える東京で

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――20年前  地球温暖化は進み続け、防止のための努力も実ることは無く、ついに日本の関東以南は人間が住むのが困難な場所になってしまった。  政府は北海道南部、函館市への遷都を決定。既に人口は6000万人を切っており、居住地域は東北・北海道で十分と判断されたのだ。  関東以南は、この間に開発された技術を用いた人工の農業地帯を作り、食糧生産基地として活用することになった。シェルターで農地をおおい、温度や水を適切に管理して作物を作るのだ。  しかし遠隔操作での管理では限界がある。「人」の手と目が必要だ。  AIではダメだった。命令に対する対処は完璧なのだが、不慮の事故が起きたときの対処を自立的に行う技術がいまだ確立されていなかったのだ。  ところがこの頃、不老不死を研究する者たちが、人間をアンドロイド化する技術を開発し、実用化への目処がついていた。  この改造をすると若い体を持ち、暑さ寒さも気にならず、ほぼ永久的に生きることが出来る。その代わり生殖機能は失われ、死ぬことはできない。  これを農業地帯に配置することになり、政府は「改造」に応じてくれる人間の募集を開始した。改造費用は無料で、農業工場での仕事も与えられるという。  その頃の私は50歳。5年前に夫に先立たれてしまい、子供もおらず一人ぼっちで、スーパーのパートで生計を立てていた。  どうしようかと迷った、このままひとりでいることが辛くってきていたからだ。かと言って出会いがあるでもない。もし若い体を手に入れられれば何かの出会いがあるのかも知れない。それに賭けてみようと思った。  かくして私は、外見20歳の体を手に入れ、東京農業工場に配置された。
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