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「ここにいたのか」
振り返ると、同棲しているアンドロイドの彼氏がいた。
「ごめんなさい。考え事をしちゃって」
「そうか……」
そう言って彼は私の隣に腰掛けた。機械の身体なのに温かさを感じる。
彼も外見は20歳だが中身は75歳。アンドロイドになる数年前に妻を亡くして、似たような考えで東京にやってきた。
5年前に知り合って意気投合して同棲を始めた、いわゆる事実婚という関係だ。
「死ねない、んだもんな……」
彼もまた同じことを考えているようだった。亡くした妻のところには行けないのだ。
10分ぐらい、2人とも空を眺めていた。もう逢えない人のことを思い出しながら。
「そろそろ、帰りましょうか」
「ああ」
私たちはゆっくりと家へ向かった。農業工場以外は、朽ちていくままの街を2人で歩く。
望んだものを手に入れたはずなのに、まるで幽霊に取り憑かれたかのような寂しさから逃れられない私たちを、月明かりが照らしていた。今日は月虹が出ているけれど、私たちは美しい輪の先には行くことはできないのだ……。
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