怒りの撮影

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怒りの撮影

狼男は怒り心頭だ。 「女てめえ!食い殺すぞ!俺は好きで変身してるんじゃねえ!てめえの故郷から発せられる光のせいで身体が無意識のうちに変身するんだ!てめえの故郷の光は有害だ!」 「そんなはずはありません。私達の住む月は、それはそれは美しい都なのです。地上の人間達にはクレーターにしか見えないでしょう。人間の科学力では見えないように隠しているのです。人間は所詮このようにカメラを構えて撮影するぐらいしか出来ません。自分達が宇宙の中心で、カメラなどという古い機械で何でも映し出せると勘違いしているのです」 かぐや姫のこの発言に、サムは黙っていられない。 「てめえかぐや姫!俺達人間をバカにする気か!てめえらの月はきちんと調査してるんだ!人間の科学力をなめやがって!てめらは隠れてるつもりだろうがな!いつかてめえらの都とらやらも完璧に撮影してやる!この撮影はその第一歩だ!かぐや、てめえを撮影して俺は一流ユーチューバーになるんだ!」 サム、怒りの撮影。狼男、怒りの遠吠え。怒りでまくしたてる男共が月明かりによく照らされている。 2人の男を怒らせてもなお、かぐや姫は冷静である。月明かりに照らされたその表情は美しくも冷たい。 狼男が牙でかぐや姫に襲いかかる。そして撮影チャンス到来とばかりに、サムはカメラを向ける。 だが、次の瞬間、サムが手に持つカメラははらはらと分解されていく。かぐや姫の月文明の力なら、カメラを即座に解体することなど造作もないのだ。かぐや姫が宙に浮かび一瞬カメラに手を触れただけで、カメラは分解され、中身のデータもつぶれてしまった。 「ああ、なんてことだ。高かったのに」 月明かりに照らされるサムの表情の情けなさよ。 狼男は、一瞬で宙に浮かぶかぐや姫に追いつけない。ふわふわ浮かぶかぐや姫がかかとで狼男の頭を小突くと、狼男はみるみる人間に戻ってしまった。 「やや、なんてことだ。人間に戻れたぞ」 狼男から大男に戻った時の情けない表情は、もはや月明かりに照らされなくてもいい。 かぐや姫は羽衣から光る棒を2本取り出して、地上に放り投げる。 「月文明の力で地球の重力も怪奇現象もコントロールしているのです。あなた達ごときが私に触れられるわけがない。その光る棒はムーンライトといいます。ムーンライトで頑張って私に触れてみなさい」 サムと大男は光る棒を持って必死にジャンプしてかぐや姫に触れようと試みる。だが健闘むなしく、その場でばすんばすんと地上に落ちるだけだ。 「そうやって光る棒を頑張って振っていれば、いつか私まで届くでしょう。せいぜい頑張りなさい」 そう言って、かぐや姫は天に昇っていった。 それからというもの、サムと大男は来る日も来る日も夜の公園で光る棒を振り回して特訓している。いつかかぐや姫に追いつく為に。 これがペンライトの起源である。 夜の公園で光る棒を振り回す男共を見かけたら、そっとしておいて欲しい。彼らは既に月の虜なのだ。 (終)
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