月明かりの公園で

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月明かりの公園で

月明かりの照らす公園で、サムは右手に持ったカメラに向かって叫んだ。 「チャンネル登録よろしく!」 サムはユーチューバーだった。だが、チャンネル登録者数は1桁で高評価もほとんどない。まったく面白くない動画ばかり垂れ流していたので「安定のおーサム動画」として揶揄されていたのである。サムは「寒い」からきた愛称なのだ。 「ちくしょう!俺は寒くない!俺は登録者数100万人に届く男だ!」 サムは月明かりに照らされながら、こう叫んでいる。 「うるせえ馬鹿野郎!食い殺すぞ!」 暗闇から突然恐ろしい声が聞こえてきたので、サムは寒くなり震えあがる。だが同時に、暗闇に向かってカメラを向けるのを忘れない。ユーチューバーのサガなのだ。 「暗闇から物騒なことを言う人を撮影するんだ俺は」 サムはビクビク震えながらカメラを構える。 暗闇から現れたのは大きい体格の男だ。月明かりに照らされ、いかにも悪そうな顔が見える。 「夜の公園で騒ぐ奴を見ると、食い殺したくなるんだ!てめえ、撮影してんじゃねえ!カメラを止めろ!」 「カメラは止めない!」 サムは大男の恐喝に震えあがりつつも、チャンネル登録者数欲しさにカメラを止めることが出来ない。 「低予算で大ヒットした映画『カメラを止めるな!』でもカメラは止めてない!俺は大ヒットを飛ばすユーチューバーになるんだ!」 こう叫ぶサムの顔が月明かりに照らされる。それはもう蒼白でおびえきった表情が月の光によく照らされていた。 「てめえ、この野郎!食い殺してやる!」 そううなると、大男は月明かりに照らされてみるみると狼男に変身していく。 「大男は狼男だ!俺はまさに今、狼男になる瞬間を撮影している!このリアリティ、高評価ミリオン超えは間違いない!」 ああ、情けない。高評価にとらわれた人間は自身に迫る危機にすら鈍感になってしまうのだ。 狼男は大きな口をあけて、まさに今、サムにかぶりつきそうになっている。だが、そこで、運良く邪魔が入るのだ。 「ちょっと待ちなさい!」 月が輝く空から、女の声が聞こえてきた。羽衣をまとった女がゆらりゆらりと公園に向かって降りてくるではないか。 「天女だ!対狼男撮影の途中で天女の乱入!これは高評価間違いなし!」 サムは空から舞い降りてくる女に向かってカメラを向けた。 「天女でもいいですが、私のことはかぐや姫と呼んでいただきたい」 かぐや姫を名乗る女は地上に降りると、狼男に歩みよる。 「月明かりで狼に変身するとは何ごとですか?私の故郷がまるで、悪人変身装置の扱いではないですか。許せませんね」 かぐや姫は狼男に抗議しているのだ。月明かりに照らされたその表情は凛としている。
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