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今昔、屍を踏みつけては生きているのが、御恩里ミスグであった。
ミスグは、妖怪の下っ端をする小さな虫の集合体で、具体的にどのような虫なのかと問われれば、その正体は単純明快。
人間に殺された、という虫たちである。
それらは、個体としての記憶が非常に曖昧であり、当然のように付随する混濁から逃れることはできない。要するに、群れるように。ただ漠然と纏まっているに過ぎないもの。しかし、それでも何年何十年、何百年と時を重ねていれば不思議なものである。
全ては自我を持ち、憎き人間の姿を形づくり、ミスグという生き物になったのだ。
「さよなら、さよなら、また会えるかしら」
地鳴りのように声が聞こえる。
言の葉を食べて生きる、食糧とするミスグにとって、先ずやらねばいけないことは、人と会話をすることだ。
多くの話を弾ませていくことで、美味となる。
特に逸品なのは、色恋沙汰に関するものだった。
他者を愛でる、他者に愛を捧げようとするこころを言の葉とする。
これ程までに甘美なものはなかった。
ミスグは、人間が好きだった。
虫であった自分に暴言を吐き捨て、躊躇わずに殺す。
人間たちを食すのは因果応報、当然の報いであり、それこそが自然の摂理であると思った。
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