アルテミスの愉しみ

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壮一は焦っていた。 電車を降りた後から彼の歩行速度は徐々にだが確実に上がっている。 駅周辺の飲み屋もそろそろ店じまいを始めていた。良心的な店の灯りはほぼ消えている。けばけばしいネオンに彩られた怪しげな店やゲームセンターの騒音を足早に抜けていく。 とにかく早く帰りたい。さっさとネクタイを外してシャワーを浴びたかった。駅から壮一の家まで徒歩20分。走れば15分とかからない。が、しこたま飲んでいる状態で走るのは危険だ、と脳が警告を出していた。実際電車の中でもひどく頭が重かったのだ。 繁華街を抜け大通りを横切ると住宅街に入っていく。あと30分もすれば夜中の12時。灯りの付いている家は少ない。頼りの街灯もまばらだ。 それでも何とか周りが見えるのは今日が満月のお陰だ。 にも拘らず。 壮一は月を見上げて舌打ちした。 ーーくそっ、ふざけるなよ。なんで満月なんだよーー 電車に乗るまではいい気分だった。少なくともアレを見るまでは。
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