月明かりの魔女

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 夜の帳が降り、すっかり濃紺にそまった湖のほとりを、レンとカイは月明かりだけを頼りに歩いていた。村の掟で、子供だけで湖まで出歩くのは禁じられていたが、12歳になったレンは、自分の意志さえあればどこへだって行けると信じていた。行けなければ、父がそうであったように、立派な冒険家にはなれないと思っていた。  そよ風がレンの頬をそっと撫でた。小波が浜辺に打ち寄せ、湖面には真ん丸い月の姿が揺らめいていた。 「なあレン、本当に行くのか……?」 同い年の友達のカイが、背後から少し怯えたように尋ねた。 「今さら怖気ついたのか?カイも乗り気だっただろ」 「でもよー、本当にいたらどうするんだよ……魔女が」  レンとカイは、森のはずれの湖畔にあるという屋敷を目指していた。噂によると、湖畔の森に魔女が屋敷を建てて住み着いているという。普段は屋敷に籠っているが、満月の夜に外へ出て月明かりを集め、妖術の糧にしているという。だからレンたち村の子供は、森に子供だけで入るな、特に夜は危険だ、魔女に取って食われるぞ、と言い聞かされた。大人たちも、魔女がいるとされた区域には近づかなくなったが、レンは噂の真相を追求してやろうと思っていた。 「もし魔女がいたら、何で放っておくんだよ?おかしいだろ」 「それは……魔女に敵わないからじゃないか」 「大人たちが敵わないっていうなら、俺がやっつける」 「どうやって倒すんだよ」  レンは懐から短剣を取り出した。刀身が月明かりを受けて煌めいた。 「これ、前にお父さんが冒険から持ち帰ったものなんだ。魔除けの力があって、お父さんもこれで悪魔を追っ払ったって」 「そんな短いので?」 「怖気ついたんなら、お前は来なくてもいい」 「おい、レン!」  短剣をしまってレンは走り出した。正直ムシャクシャしていた。将来のことを巡って、レンは母の言い争いは絶えなかった。レンは父のような冒険家になりたいと思っていた。退屈な村の暮らしを抜け出し、世界中を駆け巡り、伝説の真相を確かめ、見たこともない宝物を持ち帰る。3年前に何十回目かの冒険に出かけたきり、父は帰ってきていないが、きっと今でも世界のどこかを冒険しているに違いない。レンはそんな父の背中を追いかけたいと思っていたが、母は絶対に許さないという。これからずっと、あの小さな村に閉じこもって畑を耕す人生を送れというのだ。そんな母に反発して、レンはわざと命知らずな行動を繰り返していた。あの日もそうだった。
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