(1)

1/1
前へ
/18ページ
次へ

(1)

屋上は、僕のものだった。 屋上に出るためのドアには、鍵がかけられるようになっているみたいだったけど、閉まっていたことはない。 そのことに、たぶん、僕しか気付いてない。 誰も入って来ない、快適な空間。 昼休みを過ごすのには、最高の場所だ。 教室は、やたらと音が大きく聞こえる。 だから、いつも、屋上にポータブルプレイヤーを持っていって、音楽を聴いていた。 今日は、シャッフル再生と意見が合う。気分に合った、絶妙な選曲。 いつも、これくらい優秀ならいいのに。 アコースティック版の直後に、原曲をかけない方がいいことくらいは、そろそろ学習すべきだ。 あ、「マタアイマショウ」だ。 「愛しい人へ」「ベイビー・アイラブユー」ときてたから、「100万回の『I love you』」あたりを予想してたけど、なかなかいいチョイスだな。 「いい歌だね。なんていうタイトル?」 突然、割り込んでくる声がした。 何事だ? 今まで、そんなこと、なかった。 「あ、ごめん。そんなに驚くと思わなくて。」 声の主は、制服的に・・・3年生? 「いや、気持ちよさそうに歌ってたから、なんていう曲なのかなって聞きたくなって。」 歌ってた? そうなのか。これから、気を付けよう。 あ、もう、こんな時間だ、教室戻ろう。 「あ、帰るんだ。ごめんね、なんか、邪魔しちゃって。」 ? さっきから、何を、一人でしゃべって、 あぁ、僕が返答する必要があったのか。 「『マタアイマショウ』」 「え?」 「SEAMOの『マタアイマショウ』」 「あ。あぁ、ありがとう。」 なんか、ぽけーっとした顔された。 曲名知りたかったのではないの。 まぁ、どうでもいいや。 時間だし、戻ろう。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加