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いつもは充分な幅のある校舎の裏を敷き詰められたシートを踏まないように気をつけて歩く。富士子の座る場所はどこにもない。どうしようかと困りながら歩いていると大きな敷物の真ん中にいる白井君が満面の笑みを浮かべて富士子に手招きをしている。
「 家族の人が見つからないの?」
白井君は優しく富士子に聞いた。
「 私、誰も来ないの。」
富士子は土ぼこりがお弁当に飛ばないようにそっと近づいて白井君の側に膝をついた。
「 ここに座って。」
白井君は自分の隣をトントンした。富士子は白井君の隣に正座した。ゴツゴツの石の上のはずなのに痛くない。白井君の隣はフカフカのクッションがあった。
富士子はその豪華なお弁当に見とれた。漆のピカピカなお重に見た事も無いご馳走がギッシリと詰め込んである。富士子の家のお正月のおせち料理なんて比べ物にならない。しかも富士子はいつも両親と弟達の食べ残しを与えられていたから庭で飼っているポインターの方が富士子よりもご飯をもらっていた。
「 このお弁当、白井君のお母さんが作ってくれたの?すごいね。」
富士子が尋ねると、
「 まさか。僕のママは料理は出来無い。ママは仕事をしてお金を稼ぐのが得意なんだ。だからお手伝いさん達が全部作ってくれたんだよ。お母さんは家事はしないよ。」
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