第十二話 王子の手紙と縁談話の真相

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第十二話 王子の手紙と縁談話の真相

 フェアナンドの剣幕に、ラウリンは目をぱちくりさせた。今は戦端は開かれていないが、まだシュプレー王国とカペー王国の間には緊張が残っている。気軽に手紙が送れる状態ではない。 「いや、シュプレー王国からアーレ王国を経由して、カペー王国へ送った。だが君やシュプレー王国にとって、不利益なことは書いていない」  ラウリンは、安心してくれと笑う。 「俺がアーレ王国から出る前に、シュプレー王国に信頼のできる人物がいたら教えてくれと、シャルルから頼まれていたんだ」  だからラウリンは、素直に手紙を書いて送った。一番、頼れるのはフェアナンド。彼は世つぎの王子で、優しい妹もいる。ふたりとも自分と仲よくしてくれる。そして熱心に、カペー王国語を勉強している。 「フェアナンドはカペー王国との間に、再び戦争が起こらないように尽力している、とも伝えた」  数年前まで、城では戦争再開の声が多かった。しかし今ではフェアナンドの働きで、和平を考える者が多い。  フェアナンドのほかに頼れるのは、大臣のノア。彼は誠実で、実直。和平派で、フェアナンドから重用されている。城にいる騎士で頼れるのは、ワルトとマイノ。彼らはフェアナンド個人に忠誠を誓っている。 「シャルルは、『フェアナンド王子がいれば、シュプレー王国と仲よくできる』と喜んでいた」  ラウリンの話が終わり、フェアナンドは開いた口がふさがらないようだった。私も兄ほどではないが、動揺している。わが国の様子は、カペー王国に筒抜けだ。しかも情報を伝えているのは、うそをつかないラウリン。シャルルはラウリンの情報を信頼しているだろう。  私たちの動揺っぷりに、ラウリンは小首をかしげていた。リアムは状況を察したのだろう。申し訳なさそうな顔をしている。 「あのカペー王国からの都合のよすぎる縁談は、もしかして」  私はフェアナンドに問いかけた。兄はこまったようにうなずく。 「リーナではなく、君に来た縁談だ。シャルル王子がほしがっているのは、私の妹でカペー王国語が話せる君だ」  ラウリンがぎょっとして、フェアナンドに問う。 「縁談というのは、何だ?」  フェアナンドが渋い顔をして説明した。シャルルはラウリンから情報を得て、シュプレー王国へ手紙を送った。フェアナンドに対して、 「おたがいの弟と妹を結婚させて、平和を盤石なものにしましょう」 「あなたの妹は大切にします」 「あなたは結婚の宴に出席して、私と会ってください」  と誘ったのだ。だから、嫁がねばならない妹は私だ。ラウリンの手紙に登場した私が、和平のためにカペー王国に嫁がねばならない。  ところがフェアナンドには、妹がふたりいた。私とリーナだ。父は勝手に、不細工の私ではなく、美人のリーナに来た縁談と思った。私とフェアナンドもそうだ。そこだけが、シャルルにとっての誤算だったのだろう。  もしフェアナンドが縁談を断っても、シャルルは次の手を用意しただろう。彼は、フェアナンドが平和を望んでいることを分かっている。もちろん兄も、縁談は断るが、和平に向けてともに歩みましょうという形でことを進めるが。  フェアナンドの話を聞いて、ラウリンは真っ青になった。 「すぐにシャルルに手紙を送って、ミラは俺と結婚すると伝えなければならない」  フェアナンドはあきれたように話す。 「そうしてくれ。さらにシャルル王子に、私から直接、アーレ王国を通じて手紙を出すと伝えてくれ」 「分かった。俺が仲介役になって、フェアナンドの手紙をシャルルに送ればいいんだな。任せてくれ。それからシャルルは、シュプレー王国語も話せる」  ラウリンはまた気楽に笑う。かつて戦争していたシュプレー王国の王子がカペー王国の王子に送る手紙なのに、ラウリンにとっては友だちが義兄に送る手紙でしかないのだろう。 「ありがとう。頼んだ」  ラウリンの気軽さに、フェアナンドは多少、脱力している。兄はつくづくとラウリンを見つめて、ため息をついた。 「君はわが国で、とんでもないことをやっていたのだな。家族が恋しくて、手紙をしょっちゅう送っていると考えていた。まさかシャルル王子と連絡を取り合っていたなんて……」  フェアナンドが遠い目をする。ラウリンは手紙に、フェアナンドのことを書いていると言っていた。父母に友だちができたと報告したのではなく、シャルルにフェアナンドは信頼できると伝えたのだ。ラウリンは危機感を持って、うなずく。 「あぁ。シャルルがミラに、縁談を持ちかけるとは思わなかった」  ラウリンには、こちらの方がおおごとなのか。彼はちょっぴり怒っている。私は少しあきれた。兄も苦笑する。 「そうではなくて、……まぁ、いいか。これですべてが、うまくいくのだから」  ラウリンは知らず知らずのうちに、わが国とカペー王国を結んだ。和平への道を作ったのだ。いや、シャルルが一枚、上手だったのか。わが国へおもむくラウリンを、うまく利用したのだ。
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