賢治君のチョイスと私のライフ

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 一瞬、自分がどこにいるのかわからない。目を開けて辺りを見回し、それが自分の部屋のリビングだということに気づいた。そして誰かの足。 「誰?」 「あ、目が覚めた?」 賢治君がそう言って微笑んている。 「やだ、ごめんなさい。私いつの間に。」 貴子は時計を見た。午前三時を回ったところ。 「私のことなんか放っておいて帰ってくれてもよかったのに。」 「ぐっすり眠ってて起こすの可哀想だったし、それに酒飲んで、どっちにしろ、車の中で酔い冷ましてって思ってたから、部屋にいられて僕はラッキーでした。」 「本当に、ごめんなさいね。」 「謝らないでください。本音を言うと、安倍さん、無防備でめちゃめちゃ可愛かった。約束破ってめちゃめちゃ抱きしめたくなるくらい、これでもけっこう我慢した。一目惚れした憧れの人だし。」  賢治君がそう言って、それから真面目な顔をして貴子をみつめた。その顔を見て、貴子は突然、説明のつかない愛おしさが身体の奥から湧き出してくるのを感じた。そして、熱い何かがこみあげてくることに気付いた。それが涙だと気づいたのは、彼の指で拭われた時だった。なんで?どうして私は今泣いているわけ?混乱の中、貴子は自分の涙に反応した。膝で立ち上がり、彼の唇に自分の唇を押し付けた。賢治君は一瞬、驚いたような顔をして、貴子を見て、それからまたあの人懐こい笑みを浮かべ、唇を受け入れた。とても優しく抱きしめながら。
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