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「ウッソー!そういう展開になっちゃったわけ!?」
香織が叫んだ。
「叫ばないでよ、自分でも驚いてるんだから。」
「これが叫ばずにいられますかって。」
「確かに衝撃的だったと思う。」
「それで、どうなったの?」
香織が身を乗り出した。
「大丈夫よ、誰にも言ったりしないから。」
と続けながら。
「まあ、色々と、ね。」
「何よ、そこまで話して。その場で?それともお姫様みたいに抱き抱えられてベッドルームへ、きゃーっ。」
「下世話な想像しないでよ。」
香織は貴子の部屋のカウチに座って、クッションを抱きしめながらひとりで悶えている。
「品行方正、清く正しい優等生の貴子ちゃんがセフレ、とはねえ。」
「止めてよ、そんなんじゃないわよ。」
貴子はそう言いながら、あれは何だったんだろうと自問した。目が覚めて、彼の膝を見て、彼の優しい微笑み、そして頭に降りて来た大きな掌。守られている、と思った。あの時泣いたことは香織には言えなかった。自分でもなんで涙が出たのか説明できないからだ。とにかく、彼に自分の身体を全て預けてしまいたい衝動に駆られた、それだけは確かだった。
「で、どうだったの?」
「何が?」
「決まってるでしょ、若い男とのエッチ~。もう、羨ましい~。」
「散々贅沢させてくれるハンサムな旦那がいるのに。」
「それと新鮮なセックスは別。ねえ、どうだった?」
「どうって、よく覚えて無いし。」
「嘘つき、おぼえてないわけ無いでしょ、白状なさい。」
貴子は言葉を選んだ。あれを、どう表現したらいいのだろう。そして、唐突に言葉が浮かんだ。
「自分を開放できた。」
「何それ、なんかやらしい。若い男との激しい一夜に身体ぜんか~い?」
「そんなんじゃなくて、何ていうか素直になれて、安心した。」
「ああ、聞きたくない。こっちが欲求不満になりそう。」
「聞きたいってしつこく言ったのはそっちでしょ。」
「お黙り!」
香織はそう言って抱いていたクッションをこちらに投げつけた。
神様に誓って言う。貴子は心の中で絶叫した。今まで浮気したことも、二股をかけたことも無い、一度も。だから自分が一番驚いている。亮介に対して罪悪感が無いわけではない。大変なことをしてしまったと胸がチクチク痛む。でも結婚しているわけじゃないんだからという開き直りと、さらには結婚してくれないからこうなったんでしょという逆ギレの感情もある。どちらにしても後悔先に立たずなのに、心のどこかで満たされている自分がいる。もう自分でも何が何だかわからないのだ。
賢治君はセックスの間、ずっと貴子を見て微笑んでいた、本当に嬉しそうに。そんな男は今までひとりもいなかった。微笑みに包まれながらする、それは今まで一度も味わったことの無いとても安心できるセックスだった。穏やかで、とても気持ち良くて、このままずっとずっと永遠に続けていたい、その最中、貴子は確かにそう感じていた。
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