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日常が戻って来た。朝起きて、せわしなく支度をして、地下鉄に乗る。電話とデスクトップのモニターと書類との間でリレーを繰り返し、また地下鉄に乗って部屋に戻る。
あれから賢治君からは連絡が無い。花の無い部屋が殺風景だ。ふと、初美ちゃんが言っていた投資家の話はどうなったのだろうと気になり始めた。あの時、賢治君が帰ってくるタイミングで答えを聞き忘れ、賢治君本人に聞くのも忘れてしまった。
それにしても、賢治君が神童だったという話には驚いた。それと同時に衝動的とは言え、ただの高卒の花屋の店員とセックスまでする理由がそこにあったのだと納得した。貴子は彼の潜在的な能力に惹かれたのだ。
あの後、亮介は夜明け前にタクシーを呼んで、始発ののぞみで東京に戻った。露天風呂での情事は新鮮だった。いつのも正常位では無く、貴子を抱っこする形で行われたからだ。今まで何度か旅行に行き、温泉も今回が初めてでは無い。でも土曜日の亮介はいつもと違って大胆になっていた。
「そりゃあ、彼が白状したように、賢治君に嫉妬したからでしょ。」
しろたえのチーズケーキを食べながら、香織が言った。
「自分の恋人が若い青年と仲良く、レアな外車から降り立ったんだから、燃えるわよ。」
「男って単細胞ね。」
貴子が言うと、
「貴子だって、妹とは知らずに賢治君が若い女性とラブリーなブレックファスト食べてるところを見て、妬いたんじゃない。」
「そんなこと無いわよ。」
「どうだか。」
香織が貴子の顔を覗き込んで、含み笑いを浮かべた。
「それにしても賢治君、あの自信家の亮介君が頭に血が登るというくらい美形なの?紹介して欲しいなあ。」
「人に紹介するような仲じゃないし。」
「秘密のセ・フ・レ。」
香りが含み笑いをした。
「だから、もうそんなことは金輪際無いって言ったでしょ。」
「わかったわかった。それにしてもいい人ねえ。咄嗟に上手く繕ってくれちゃったりして。若いのに機転が利く。妹さんの話どおり馬鹿では無いわね。で、結果的に貴子と亮介くんは燃え上がってラブラブエッチ~、結果オーライってところね。」
まあね。貴子は言いながら、賢治君は亮介に嫉妬しただろうか、などと考えていた。
「何、黙っちゃって。エッチの回顧録ならベッドの中でひとりでやってよね。」
香織が腕をつついた。
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