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「
木曜日が来た。賢治君の配達の日だ。
貴子はオフィスで腕時計を見た。今頃活け終わってもう部屋を出たところだろうか、それともこないだみたいに部屋で待っているのだろうか。
仕事をいつもより早く切り上げて部屋に帰った。新しい花はポピーと大輪の薔薇。賢治君の実家のものだろう。ドライブの思い出の花。その記憶を思い出させたいから?貴子はバッグをカウチに置いてキッチンカウンターに行ってメッセージカードを探した。
何も置いていない。
どうして?
独り言のように言って、身体をカウチに沈めた。
亮介が好きなのに、私はどうしてこんなに賢治君のことが気になるのだろう。
あれから賢治君からは何の連絡も無く、メッセージカードも置かれなくなった。それでいい、そうあるべきだと思いながらも、花が新しくなる度についついカウンターの上にメッセージカードを探してしまう自分がいる。
梅雨に入り、日比谷公園でのランチはしばらくお休みになった。晴れた日でもベンチが濡れていることが多いからだ。六月、ジューンブライドの季節。銀座のティファニーのウインドウにもプリンセスカットやクッションカットのエンゲージリングがこれ見よがしにディスプレイされる。
亮介とは相変わらず、進展の無い山手線を続けている。貴子はいろいろ考えることを放棄して仕事に没頭した。新しい企画が通り、商品化に向けて部が一体となって残業残業の目まぐるしい日々が続いていた。
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