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賢治君はあれ以降、迫ることも無いしキスもしない、それどころか亮介のことは一切言及しない。ただ、一緒にご飯を作り、一緒に食べて、カウチでデザートを食べたり、食後酒を一緒に飲む。物足りないと感じることもあるけれど、だからと言って真剣に付き合うつもりかと言われれば、それは有り得ないと思う。
だって。
百歩譲って高卒でもいいと決断したとして、賢治君は十歳も下の先が見えない若者だ。彼が三十になると貴子は四十、その事実は天地がひっくり返っても変えられない。
亮介とは定期的に会っている。フルコースのデートだ。会い方の種類があまりにも違うので、思ったより罪悪感は無い。強いて言えば隠し事をしている後ろめたさを感じるくらいだ。賢治君が来る夜は、貴子はとことんリラックスする。亮介と会うときは適度の緊張が心地良い。亮介は相変わらず、結婚の「け」の字も口にしない。けれど、そのことで貴子が焦れたり、不安になることは無くなった。もしかしたら、それが罪悪感の証なのかもしれない。
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