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 ガタゴトと不規則に身体が揺られ、ぼんやりと視界が戻る。薄暗い。朦朧としたまま眺めていると、突如全身が震え出した。 「お客さん、暖房つけましょうか?」 「えっ? あ、ここは……」  聞き慣れない男の声に、ハッと身を起こした。白いシートに、背凭れのレースのカバー。俺は、タクシーの後部座席で眠っていたらしい。窓外は暗く、町明かりは見えない。オレンジ色の街灯がポツリポツリ、規則的に通り過ぎていく。 「在来線が終わったんで、一番近くの新幹線の停車駅に向かってます。後15分くらいで着きますんで」 「えっ、あの」  一体幾ら掛かるんだ? 財布の中身を思い返してヒヤヒヤしていると、バックミラーに映る日焼けした中年男の双眸が細くなる。 「お代は、先生に貰ってますんで、ご心配なく」 「先生……?」  混乱する俺の傍らに、紺色のスポーツバッグがある。さっきまで、枕にしていたらしい。外ポケットに、「野邑へ」と書かれた茶封筒が差し込まれている。  手に取り、中を開くと、帰りの新幹線のチケットと手紙が入っていた。 『野邑へ。協力に感謝している。最初は辛いだろうが、すぐに慣れる筈だ。どうしても震えるようなら、ハーブティーを一杯だけ飲むといい。作り方は同封したからな。いいか、ヘラクレスは、およそ2週間毎に1輪だけ蕾を付ける。くれぐれも摘み忘れるんじゃないぞ。開花したら、もう君を救えない。それじゃあ、半年後にまた会おう。』  神経質な小さな文字で綴られている。どういうことなんだ? 協力? 蕾って、何のことだ? 『ヘラクレスはね、花を咲かさないように気を付けて育てれば、宿主の体内に養分瘤を作ることが分かったんだ』  耳の奥で声がした。手紙を持つ手が震える。そうだ。あのテーブルで、曽我部と話して……俺は、俺は? あの後、何があった――?
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