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「会社がネットでSNSで本名を公開するのは、禁止なんだよ。小説投稿サイトでね。僕でなく小夜子の名前使ったんだ。創作に性別は関係ないから、佐藤小夜子……」
「わ、私が書いたって他の人思うんじゃない! 私の許可は取ってないよね?」
「だから、誰にも筆名が妻の名前だって言ってないよ」
「山本さんはどうなるの。年賀状で私のフルネーム知ってるでしょう!」
うーん。漫画雑誌の漫画家さんも、原作者さんも、本名ではあり得ない筆名ばかりだ。
「佐藤も小夜子も多い名前だし、特定不可能だよ。読者さまも、まさか本名とは思わないよ」
それから、一週間小夜子は口を利いてくれなかった。僕は男性主人公に自己投影をしてしまう。恋愛場面を書くのに、小夜子以外の女性に、フィクションであっても、手さえ握りたくなかったのだ。
マンガになった2作品の、メイン女性登場人物のモデルは全て、嫁さんの小夜子だ。
コタロウについては、少しムリして書いた。小夜子の犬には、絶対になりたくない。
***
年度末の確定申告は、市役所に税務署の方がきてくれる。正直に僕が妻の名前で書いたと伝えて置いた。税務署の方から、勘違いされない配慮だ。
顔見知りの市役所税務課の職員さんに呼び止められた。
「佐藤さん、軽自動車税、何度も手紙で催促しましたよ」
何度も嫁さん宛てに、軽自動車税の督促状がポストに入っていた。来る度、嫁さん間違いだと思って、読まずにゴミ箱に捨てていた。
市民税を支払うとき、僕が“ついでに”を忘れていたのだ。急いで現金で軽自動車税支払いを済ませた。(完)
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