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往復はがきで、返信はあったが、嫁さんが奇麗とか、お元気そうで、頑張ってるみたいで、とか、僕と嫁さんを、褒めている文面だ。
***
それからしばらくしたある日の夜、山本君から携帯に電話があった。明日は休みなので、のんびり映画のDVDを見ていたのに。少し、うっとうしい気も、心の片隅にあった。
「お、山本君電話してくれたんだ。声、元気そうだね」
「どうも、お互い元気で何よりだよ。いきなり電話してごめん。大事な話があって電話したんだよ」
世間話や身の上話は省略され、すぐに山本君は本題に入った。居間で壁にもたれ掛かりながら、リモコンでテレビを切った。良い場面だったのに、ソファーでテレビを見ていた嫁さんは、こっちをチラ見するが、瞳に輝きはない。
担当している漫画家さんが、急病になったそうだ。不幸中の幸いでしばらく静養すれば心配ないそうだ。しかし、漫画雑誌で、二十ページ分を三日で埋めないといけないそうだ。
新人漫画家さんが、二十ページ描くことになった。お名前を聞いたが、どこからが名字でどこからが名前か分からない個性的な筆名だ。山本君によれば、漫画はうまいそうだが、“いつも描いている作品と違って、ジャンルに慣れていない”そうだ。
編集者の意見として、熱心に聞き入ってしまう。
私が小説を書いていることを思い出してくれたのだ。漫画原作者として、僕に白羽の矢が立ててくれたのだ。
明日の朝まで漫画の原作を、二十ページ分を書いて欲しいと言うのだ。私は修行作品デビューのため、いや、親友の力になるため、喜んで引き受けた。僕から出した唯一の条件は、原作者として僕の筆名を掲載することのみだ。
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