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周囲は、仕事帰りのお客さんが多い。他のお客さんの邪魔にならないよう、本棚の間を、人の少ない方向にカニのように移動した。
僕の傍らでは、女性の腕が伸びた。隣には女性向けファッション誌が置いてあった。女性向け雑誌のコーナーに佇んでしまったのだ。若い女性の方は、僕と視線を合わせず、無表情だった。
雑誌の表紙は、美人でグラマラスな女性イラストだ。服が所々破れ、ブラジャーやパンツをしているような部分は隠れている。白い肌や胸の谷間が強調されていた。知らない女性の前で読んでしまって、顔から火を噴き出しそうだ。
資料用にライバル雑誌も、一冊づつ買う。カウンターで子供連れのお客さんの後ろで並んでいた。背後の女性客に配慮して、胸の前でマンガ雑誌を、数冊抱きかかえた。幸いレジは店長さんだったが、書店でパートをしているご近所の奥さんが、隣のレジに立つ。
「お次のお客さまどうぞ」
肩越しに、後ろの女性客を促すが、遠慮されてしまった。過激表現のある雑誌を数冊、裏変えして並べて置く。裏側に、女性のセミヌード写真の広告があった。目を凝らせば、休載した漫画家さんの作品が、実写映画の広告だ。
ご近所の奥さんが、紙袋に手早く詰めてくれた。
「お客さま、ありがとうございました」
「どうも」
いつもなら名字で呼ばれるのに、今日はお客さまだった。
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