第十六話 クエストが終わったら

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第十六話 クエストが終わったら

 ───地下ダンジョンの通路。倒れる冒険者を見下ろすのは、同  じく冒険者の三人。  罠を張るも見事に返り討ちに遭い倒され。瀕死状態で生かされて  いるPK三人へ、俺は交渉を持ちかけるも。 「は? お前何言ってんの? 良いからさっさと町に返せよ  クソが。」  帰って来た言葉はそれ。ううーん。 「口悪~。」  同じ返事を聞いたリュゼが、屈む俺の背腰に感想を零す。  リュゼも口が良いとは言えないが、言葉の不快感と頭の悪さは彼  の方が上だな。  んー喋ってくれるのは一人だけで、後の二人は黙りか。ならこい  つがリーダーって考えて良いのか? 取り敢えず話してくれる彼  に。 「まあまあ。話を聞く意外に選択肢は無いんだから、そうカリカ  リしないでさ。」 「……ウゼェよクソが。」  彼らは現在瀕死状態。なので他者からの完全な蘇生を待つか、  時間経過か自害に依るライフ切れからのダウンで町へ帰還。  それしか彼らに選択肢は無い、のだけど。  生憎、戦闘前にリュゼへ転送阻害のアイテム使用を頼んで置いた  ので、自害しても暫く彼らは町へ帰れない。  モンスターにやられて直ぐに町へ帰れなかった事で、彼らにもそ  れは分かってるはずだ。  因みに。このまま転送阻害アイテムを連続使用して拘束し続け  る事は出来るが、そうすると大抵はログアウトされるし。やり  過ぎは通報対象なので程々にしないと行けない。  俺はログアウトされない様、チクチク刺す事を意識し。 「いやぁ今時こんな“アホ”な方法でPCを誘う人が居ると  はねぇ。驚き!」 「……。」 「でもこの方法って悪質だからさ。次からはやめとこ? ね?」 「クソウゼェ死ね。」 「そんな、死ねとか言っちゃ駄目だよぉ? ボ・ク・ちゅ  わん!」  自分でも身の毛の弥立つ煽り方だと思う。でもこの気持の悪  さが彼の神経を逆なでしてくれたらしく。 「死ね!くたばれ! キモいんだよクソがッ! ぶっ殺すぞクソ  ガキがぁ! 調子のんなよ、お前の名前とID覚えたからなぁ、  てめぇだけをずっと狙う! 一生狙って殺る!おい聞いてんの  かクソ!」 「……。(わー凄い。)」  お陰で相手はブチギレてくれた様子。アホを煽るの楽しー。  っても怒りっぽいなぁコイツ。ここまで質の低いPKは勿論、  PCだって早々居ないぜ。 「絶句。もう何か色々絶句しちゃう。」  全然笑えないけど、作り笑いを含ませ言葉を零せば。 「ああ!? こんなクエストに引っ掛かってマグレで勝てた奴が  イキってんじゃねーぞ! クソっ! 頭の足りてねえクソども  にはムカつくんだよ!」 「もー君クソばっかり。クソを挟まないと喋れない人じゃん。  後まぐれでも何でも無いからね。」 「こいてんじゃねぇ! 控えやあんなインチキで勝っといて  よお!」 「えぇー。一対一だったらぶっ殺せた?」 「当たり前だろっ!」 「序にリアルだったら?」 「ぶっ殺しまくってやるよ! 住所言えよ殺しに行くから  よぉ!」  おーおー安易な暴言が出るわ出るわ。もっと色々な物を引き  出したい所だけど、アホの引き出しは浅いらしい。決定的な  物は引き出せたし、これ以上は此方が疲れるだけだね。 「……こんなもんでいっか。」 「はぁ!?」 「あーもう良いから良いから。こっからはお勉強の時間ね。」 「意味分かんねーんだよっ!」  屈んだ体勢から立ち上がり。 「そもそも君等がやったコレね。もう方法が広まってるから対処  が簡単なんだよ? 後詰にアイテムに仕掛けられた罠とかさ。  分かってるからこそ、背後を取ろうとする見張りに予め他PCに  奇襲を頼むとか、アイテムトラップに引っ掛かったフリして  油断を誘い、モンスター召喚とかねー。」 「「「……。」」」 「あー……今思うとこの方法穴だらけだったなぁ。逃げ難いダン  ジョンを舞台設定したのもアホだったし、相手が強いプレイヤー  だと普通に手を出し難い上に。何よりもやり方が悪質だったね。  まあこう言うのは方法や噂が広がる前にやめるのが正解なんよ。  二番煎じはそもそも引っ掛かる人が居ないし、掛かる相手も分か  ってる相手の方が多いし。うんうん。」  一人納得する俺へ。 「その話は掘り下げるなよ。もう詰めてくれ。」  相棒からの指摘が飛んで来た。おっと話が逸れてたな。  納得をやめPK達を見下ろし。 「まあそんな訳で。君達には勉強料と迷惑料払ってもらい  ます。」 「あ?」 「運営への通報。それをを黙っててあげるから、その分お金を  頂戴って話し。」  とっとと話を詰めにかかると。 「ぷ。お前頭大丈夫かよ? PVPフィールドでPKが違反な訳ねーだろ  うが!」 「……くっ。」 「バカ過ぎ。」  喋ってくれたPKに続きそれまで黙ってた二人まで笑っている。  おいおいマジかよ。また説明とか面倒だなぁ。そう思って  いると、リュゼが俺の腰から顔を覗かせ。 「あのね。アンタ達此処は町と違うの分かってる? いや分かっ  てないわよね、だって“バカ”何だもの。」 「だとクソガキッ!」 「煩いしガキ言うなガキ。  良い?バカイチ。町や酒場、一部の場所は暴言の規制が設定さ  れてて発言出来ないけど、“外は例外”なの。  例外って言ってもバカイチが今考えた“言っても良い。”って  事じゃないわよ?」 「! か、考えてねーよ!」  リュゼは呆れ笑いを一つ見せては。 「外はモンスターやら戦闘何やらで気持ちが昂ぶる事が多い  でしょ? だからそれに配慮されてて。“外では言葉遣いが多  少荒く成っても仕方ない。”そんな感じに成ってるの。  ま、気分を盛り上げるためってヤツかもね。  だからって言えるから~で、PCに暴言吐きまくってれば発言ログ  取られて運営へ通報されるの。だからアンタ達をこのルプスは煽  ったのよ。」 「「「!」」」 「分かった? バカイチとニ、サン。」  口の悪さなら断然此方のほうが聞き心地が良い。そんな感想を  頭で思っていると。 「だ、だったらお前らが煽ったって証拠も───」 「それはムーリー。何故ってバカなアンタ達には説明しない  けど。」 「ざっけんな!!?」  煽って満足したのか説明が面倒になったのか、切り上げるリュ  ゼの態度に怒りが有頂天なPKの一人、いやバカイチ。そんな彼  へ相棒が頭を“やれやれ”と振りながら。 「ふぅ。必要に煽るなよ、リュゼ。」 「~~♪」 「全く……。彼女の態度が悪かった、と謝る気は無い。  互い様だからな。だが変わりに教えよう。生憎自分達の発言は  ログに残ってはいない。自分達は秘匿コードを使って発言を隠  させて貰ったからな。」 「はあぁ!?」 「因みにアンタ達と最初に会った時からね。見えてる名前は勿論  アタシ達が呼び合ってる名前も別のに聞こてるのよ。」  相棒とリュゼ二人の発言に混乱した様子の彼へ。 「こう言う事する時はさ、自分の名前とかIDに偽装コード使わ  ないとダメだよ? じゃないとPC名とID控えられちゃうか  らさ。」 「「「っ!」」」 「次からは気を付けようね。さて、この控えたPC名とID。  PVPフィールドを活動拠点にしてるギルドや連合に教えちゃお  うかな~。そしたら君等、悪質PCって事で彼らに嬉々として狙  われちゃうかなぁ?」 「「「………。」」」 「 あ、後殺害予告とかもされちゃったな俺。これって運営に  報告すべき警察沙汰じゃ?」  俺の言葉に一人喋って居た男が反応を示し。 「ふ、ふざけんな! ゲームの中で起きた事はゲームの中でだけ  にしろよ!」 「だって脅迫は脅迫だしぃー。俺をリアルに殺すって言ったよね  君?」  まあリアルで俺もう死んでるんだけど。何て思わず言いたく成  ったけど、相棒にしか伝わらないブラックジョークだな。  それにまだ鮮度が良すぎるよね。 「……! ……っ!」  俺の言葉にやっと自分達の状況が飲み込めたらしい彼らは。 「「「……幾ら払えば良い。」」」 「毎度っ! あ、後クエストはクリア扱いでよろすくっ。」  値段の交渉へ進む。  この手の話に興味のない相棒はショットガンを遊ばせ、リュゼ  がそれにリクエストを飛ばしている。呑気な二人を他所に、PK  達と交渉する俺は彼らに“有り金全部。”と言いたい所だがそ  れは言わない。  もらう金額は彼らと話して資産を予想し、ちょっと痛い程度に  留めるが賢い。根こそぎ奪って恨みまで含まれては困っちゃう  からね。恨みは何に置いても貰わないに限る。  そうして瀕死の彼らと取引でそこそこの現金を引き渡して貰っ  た俺は。 「うっし。じゃあ次からは気を付けるようにね、素人PK諸君。」 「「「……。」」」 「て訳で相棒後よろ。」 「……はぁ。トドメだけってのは面白みに欠けるが、狩った獲物  の後始末と考えれば当然か。」  ショットガンを遊ばせるのをやめ、倒れるPK達に近付く相棒。  そんな彼を見上げては。 「ちょ、金なら払ったろうがっ!」 「んー? いや、いやいやいや。当然装備品込みっしょ?」 「っ! こんのクッ───」  何かを言う前に彼らにヘッドショットを決める相棒。  そうして素人PK三人は再びダウンし、転送阻害の効果を解除。  倒れる彼らは拠点への転送を選択した様子で、体が光りに包ま  れ消え去って行く。  後に残されたのは装備ドロップが詰まった光るキューブ体のみ。  俺はそれへ近付き手を翳しては。 「ほほーう。PKやるだけあって、装備品はちゃんとしたモン揃え  たんだねー。これは結構な迷惑料ですなぁ!」 「ね、ね。アタシには使った蘇生アイテムと妨害アイテム。後召  喚スクロール代をプラスしてから分前頂戴よ。」 「わーってるわーってる。経費込でちゃんと分配すっから心配  しなせいな。」 「信頼してるから分配任せてる。だけど言っとくべきでしょ。  んふ、それにしても美味しい臨時収入ね。」 「へへ、確かにだ。」  悪い笑みを浮かべる俺とリュゼ。早速得た品物の現在の金銭価値  をコンソールで調べては、彼らから取引で得た金額と、装備品の  売買で得られるであろう金額を均等に分け。それを二人へ送る。 「ほいっと。二人に送ったけど届いた?」 「来た来た。ありがと。」 「ん。俺も届いてるな。」  よしちゃんと届いたな。後はモロコシにも送ってと。……後は。 「……。」 「? ……何してんの?」 「んー? ……ちょい待ち。」 「???」  適当なメッセージを添えて。一掃送信。 「はい終わり。んで何だって?」 「いや、今何してたの? まさかネコババ?」 「信用はどうした信用は。今のはこの辺りの知り合いと、適当な優  良PVPギルドにさっきの連中の事を教えといただけだよ。」 「うへぇ。黙っとくって言っといて裏切るとか、えぐぅー。」  あからさまに引いた態度を見せるリュゼ。面白がってる獣人っ子  に俺は。 「ああ言うPCが居たら全プレイヤーが困るからな。何でもそうだ  けど、ゲームつってもこれはオンゲ。相手は同じ物を遊んでる人  間だ。そんな事も忘れちまって、相手へのリスペクトを欠いたロ  ールプレイしてる奴らに容赦なんてしねーよ。俺は。」  PVPフィールドで相手をキルしても、必要以上に暴言を吐き散ら  さない人が多い。それは何故かって、彼らはこの世界を廃れて欲し  いと思って無いプレイヤーだからだ。  プレイヤーが幻滅してやめてしまっては、困るのは同じプレイ  ヤーだと彼ら自身も分かってる。だからこそ、多少の煽りや貶す  言葉を吐いても、徹底的な物はしない。するとしても彼らは相手  を見てやってるし。 「それに何より、そう言うプレイもちゃんと出来る場所があるだ  ろ? 俺や一般プレイヤーは絶対に近付きたくない場所にさ。」 「あー……()()()()でって事?」 「そそ。殺伐したいならあっこでやってもらわないとね。」  このVRゲームの仮想世界はとても良く出来ている。  町や山、ダンジョンに森や海と言った物が存在し、尚且仮想世界  自体が広大だ。もしも端から端を歩いて冒険しようとすれば、現  実時間でも相当掛かる程度には、広く、果てしない。  そう広い仮想世界を管理しようとしたら、全部を管理するのは、  ゲーム運営チームでも難しいらしい。  ……なので、この仮想世界には運営の手が及ばない危険地帯、通  称『黒の領域』と呼ばれる場所が、暗黙の事実として存在してた  りする。  所謂ネットで言う所のディープウェブ、或いはダークネットと呼  ばれる場所に近く。一般的なPCの多くは話題事態を避け、噂好き  なPCは都市伝説的だと浮かれ話し。悪ぶってるPCは黒だと自称し  たり、或いは黒寄りだねと話されたりと。暗さの代名詞として使  われる事も。  ただ多くのPCに共通している事は、誰も本気で“行き方”を尋ね  ない事だろうね。  何せ其処に居るのは“本物”ばかり、怖がって当然だ。それ程皆  に恐れられ、そして暗い魅力を放つ領域。   数ある仮想世界的VRゲームの中でも、此処だけの特色、それも異  色的過ぎる魅力の一つだ。 「つっても居るの危ねー連中ばっかだし、ガチガチのPKやPKKと  かが平気で闊歩してるからなー。普通の範囲で遊びたい連中は  勿論。悪ぶってるだけな連中もまず近付かないよな。」  だからと言って此処でして良い事じゃなかったね、PK君達よ。 「ま、運営への通報だけは勘弁したし。そろそろ帰っか。」 「さんせーい。」 「やっとか。」  臨時収入に喜ぶリュゼと、対して興味なさげな相棒を連れ立ち。  俺はダンジョンの出口を目指して歩き出す事に───  ───火蝶を再び使用し、襲われた場所から離れ。地下遺跡を  の雰囲気のある石壁を流し見しながら俺は。 「アンデットモンスターを放ったから、マジで此処墓地みたいに  なったな。」 「ふ。確かにな。」  今も此処の何処かにはリュゼが放った中ボスアンデットが徘徊し  ていると思うと、ちょっと面白い。  同じ様に面白いと思ったらしい相棒が笑い、そのまま俺は後ろへ  顔を向け。 「リュゼも此処が墓地っぽいって思ったから、アンデット系召喚  したんだろ? ……リュゼ?」  少し遅れて歩く獣人っ子は何かを考えている様子。 「ねえ。」 「ん?」 「さっきのクエストさ。」 「うん。」 「かなり有名な悪質詐欺クエストの一つだけど、何かアンタ詳し  くなかった?」 「いんや? 有名だし皆が知ってる程度しか知らんよ?」  俺の返答に納得しかけるも。 「んー……。何か詳しいって言う寄りも、もっと“近い”感じがす  るのよね。」 「近い? なんだそりゃ。」 「それ、は上手く言えないけど。だけどクエスト内容を見ただけで  直ぐに気が付いて所とか、対策の手際が良かったじゃん?  コレを知ってたアタシでも言われるまで気が付けなかったのに。  ……ぶっちゃけさ。した事あるんじゃないのー?」  冗談交じりに笑って話すリュゼ。  見た目通り勘が鋭い、って言うよりもこの場合は嗅覚が鋭いか?  リュゼの言った事はちょっとだけ正しい。正確には“してた”の  では無く“考案者”ってだけだ。  ある時手軽に資金を稼ぎたいと夢想した俺は、考えついた金の稼  ぎ方の一つを、匿名で募った野良に実行させてはまあまあな上が  りを受け取っていた……が。  流石にノリで考えた物にしては悪質過ぎて、早々に中止を決め。  作戦実行部隊にもそれを伝えた、んだけど。人間甘い蜜を簡単に  は諦められない者で。もっとを望む野良組は中止と騒ぐ俺から離  反を表明し、野良だけで作戦を続けては少数部隊を悪の組織へ発  展させる始末に。  もう知ーらないっ! とは言えない。悲しきかな自分で撒いた種。  仕様が無いので俺はやり方をこっそりPC達へ広めつつ、相棒へも  討伐隊の組織を頼み。  ガッツリ掴んでいた彼らのPC名とIDに、増長した野良組の活動拠  点を方方へ密告。  それらのお陰で正義感の強いPC達で討伐隊が組織され、彼らの一  斉粛清が始まり。当時はちょっとした話題にもなった。いやぁ懐  かしい。  ……何て、若気の至りをリュゼに知られるのは良くないな、  うん。さてどう話を逸らそうか。 「! 待てっ。」 「相棒っ!」 「あ! 絶対なんかあるっしょ!」 「いっ!? 無い、無いって無い無い!」 「ウソっぽい! ねえ教えて、教えてよ! 絶対面白そうな話し  じゃん!」  困る俺に向けて助け舟を出してくれたと思い、思わず感激の声が  漏れてしまい。リュゼにそれを勘付かれてしまった。しかし、  当の相棒はそんな俺らへ。 「違う! 前から何か来るぞ二人共!」 「「ほあ?」」  リュゼと一緒に相棒が見遣る方へ視線を飛ばす。  薄暗い廊下の先。何かが此方へ走って来るのが見え、同時に“ガ  チャンガチャン”と言う金属音を響かせ此方に近付くそれは。 「っ!っ!っ!」  ダンジョンの入口へ待機させたはずの玉蜀黍の姿。何故か此方に  走り向かう彼が此方に気が付き。 「ルプス殿にブルクハルト殿!」  フルプレート姿で走る彼のステに歓心していると、彼の背後。 『ァァァアアアア!』 「お助けを!」  野に放った中ボスアンデットモンスターの姿。モンスターは折れ  た直剣を振り回しながらモロコシを追い駆けて居る。自分達で召  喚した中ボスモンスターの強さ的に、一応倒せるには倒せる。  だけど。 「事前準備無しでの戦闘突入かぁ。腐っても中ボスモンスターだ  から……! え、今の上手くね?」 「言ってる場合か! 自分とリュゼは後ろ、お前と玉蜀黍は  前っ!」 「ほいさっさー。」 「……あんなアホ見捨てれば良いのに。」  アホな事を言う自分に代わり、何とか陣形を整えようとする相棒  が指示を飛ばし後ろへ下がる。小声で恐ろしい事を言うリュゼも  それに従い後ろへ。  相棒の指示も的確だったので特に何も言わない俺は、取り敢えず  近付く者へ。 「モロコシィィィ!」 「申し訳ござらんー!」  不用意にも中ボスに発見され、それを連れて来た彼へ怒りの叫び  を上げる───  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  ───腐った体で剣を振るう異形。振るわれた斬撃をモロコシが  盾で防ぎ。モンスターの背後に居た俺はその隙を使い、走り込ん  ではモンスターの足を、装備したショートソードで斬り付けなが  らスライディング。  そのままモンスターの股を潜ってはモロコシをも通り過ぎ。起き  上がらずそのまま待機していると。 「(わー流れ星みたーい。……なんつって。)」  仰向けで待機する俺の頭上を光弾が一線通り過ぎ。光弾を目で  追って頭を上に向ければ、既に横へ避けて居たモロコシを通過  してその先。 『! ……───』  体勢を崩していたアンデットの眉間を貫く。  アンデットモンスターの体がぐらりと揺れ、地に体を倒すと  同時。その体が光の粒子と成って消え去って行く。  中ボスアンデットモンスターの討伐完了。全員から“ホッ”とし  た雰囲気が滲み出てくる中。 「いやぁ中々歯ごたえのある魔物でしたな。しかし! それでも  我々の敵ではござりません! ハッハッハッハ!」  大笑いする囮役のモロコシ。もう口で突っ込む気の無い俺は何  も言わずに立ち上がり。 「ん? 如何がなさいましたかな?」 「うるぁあ!」 「ハッハッハ。拙者には通じませんぞ!」  デカイ図体を蹴っ飛ばす。PVPフィールドなのでダメージが普通  に通るが、流石に硬い。でも気分が少し晴れたから良しとしよ  う。 「おら。モンスターや騒ぎを聞きつけた誰かに絡まれると面倒  だから、さっさと帰るぞ。」 「承知。」  俺は後方に居た相棒とリュゼにも合図を送り、三人でダンジョン  の出口を目指し、そして今度こそダンジョンの外へ向かう───  ───地下からの階段を上りダンジョンの外。  生憎此処のダンジョン内では死に戻り意外の転送が制限されてい  るので、こうして地上に戻る必要があった理由(わけ)だ。  地上遺跡跡地に出て来た俺達の、その側へ。 『『『『……。』』』』  それぞれのマイサーヴァントが近付いてくる。  一つは女袴姿の人型で、俺のマイサーヴァント。  一つは尾の長い鷲の形をした、相棒のマイサーヴァント。  一つは重装甲に身を包んだ人型で、ハートマークの付いた  盾を持つ、モロコシのマイサーヴァント。  一つは頭が二つに尾が三つ。大型犬よりも少し大きい真っ  黒な犬型で、リュゼのマイサーヴァントだ。  彼らには出口付近の安全確保を頼んで置いた、と言うのはモロコ  シだけの建前で。 「報告は?」  俺が尋ねるとリーダー役を任せたマイサーヴァント、ノギが一歩  前に出ては。 『命令通りに。皆様がダンジョン突入後暫くしてから、潜んで居  たPCを探し出し、これを無力化しました。』 「上出来上出来。」  そいつ分ももうせしめてあるし、トドメ無しの放置で良いな。  俺達はそれぞれのマイサーヴァントを労う。そんな中。 「お三方、今回は本当に助かりました。」  モロコシがお礼を口にした。言動が巫山戯ているようで、その実  全てが大真面目な彼の感謝の言葉。大方今回も善人部分で騙され  たんだろうよ。そう思うと。 「こんな騒ぎに付き合わされるのも初めてじゃねーし。別に構わ  ねーよ。」 「俺は相棒に付いて来ただけだ。」 「アタシは全然構うけどね。」  モロコシが頭を一つ頷かせ。 「皆さん……。いや(かたじけ)なし!」 「え? アタシは構うって、聞いてる?」 「本当にお二人は心の、いや器の広い御仁ですなぁ!」 「は? 何オマエさらっとアタシ省いてんの? オマエが最初に  泣き付いて来たのアタシだろ? おい聞いてんのか?」 「……はあぁ。何でござるぅ?」 「呆れてんじゃねーよっ!」  怒鳴るリュゼにすますモロコシ。あれは喧嘩するほど、って奴な  のかも知れない。多分。それにしても。 「何だかんだ面白かったぁ……。」  やっぱオンゲは面白い。何時までも遊んでいられる魅力が此処に  はある、あったよなぁ。 「おお、ルプス殿にも喜ばれて何よりです。」 「臨時収入もあったしねー。」 「……。」  此方を見る三人へ俺は。 「ほんと、今日は楽しかったわ。」 「何よりでござる?」 「そんな楽しかった? あ、収入的な意味でか。」 「おい。」  ずっと彼らと居たいが、ずっとは居られない。もう時間が無い。  俺はマイサーヴァントを自室へ戻るように指示しては。 「んじゃ……。お前ら元気でなっ!」 「! 待てルプス───」 「「?」」  そうれだけを言って、PTを抜けて自室へ跳ぶ。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  自室へ跳んだ俺は。 「……誰も最後に付き合わせる気は無いんだ。悪いな。」  自室の入室許可を全て不許可へ変更し。ソファへ腰掛けた───
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