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第十五話 嫌がらせクエスト?
───崩れた石垣に折れた石柱。倒壊した何かの建物には生活の
後が僅かに残っているも、それが見た者に寂しさと一抹の恐怖を
感じさせる。
そんな寂しい遺跡跡地を、人目を避けるように歩く四人の姿。
酒場で相棒と話し込んでいた俺は、迫る危機的事実から目を逸ら
すため、場に現れたモロコシの誘いを受けてPTへ参加。したの
だけど。
「はぁ。今時居る? こんなん引っ掛かる奴ー。」
溜め息混じりに呟きながら、俺は近くにあった柱跡に腰を降
ろし。ちょっとした仕込みを準備。
見捨てるのも可愛そうだし、気を紛らわせたかった俺は。結
局この実入りの少なそうな、と言うかただの嫌がらせにも近
いクエストを手伝う事に。
まあモロコシの言い分じゃ、クエストを持って来たPCは本当
に困った様子で、思い出の品だからとか何とか言ってたらし
いとの事。
何が何でも回収させたくての設定なら、分からんでも無い。
ぶっちゃけ俺は嫌がらせだと思うけどねー。
「オマケに此処ってPVP解禁フィールドだから、ダンジョンに辿
り着くまででも一苦労じゃん。」
側で辺りを“キョロキョロ”と窺うリュゼ。
リュゼは辺りにPCが居ないかを気にしている様子だ。
「他PCの気配は無い。だからそんなに怯えなくても良い。」
「怯えては無いわよ。ただ急な奇襲とかってのが苦手なのっ。
ビックリするから……うん。此方も音無し。」
戦闘スタイルや取得スキルにアビリティ構成的に、気配察知など
が得意な相棒とリュゼが辺りを探り、異常は無いとオープンで俺
に伝えてくれる。
「ほいほい、他PCの気配は無し、と。予想通りって事なら……。」
仕込みはこんなモンか? 俺は出来た仕込みをPTメンバーへこっ
そり適応させては、シークレットチャットにて。
『───って感じがするから。頼める?』
相棒とリュゼだけにちょっとした頼み事を話す。
『了解。』
『分かった。』
二人の側に浮かぶ、俺だけに見える文字で返事を確認。
特に質問の無いあたり察しが早くて助かる。
此処に来るまでの間も他のPCに合わないよう常に気を付けて
くれていた二人へ。
「サンキュー二人共。お陰で無事に此処まで来れたよ。」
「気にするな。絡まれると面倒だと自分も思ってたからな。」
「アタシも~。PVPダルいし。」
とか言いながら、皆の為にしっかり注意してくれるのが相棒で。
リュゼも俺が対人戦を好まないと知ってるからか、結構を使っ
てくれていた。俺が頼れる相棒と、リュゼの隠された気遣いを
嬉しく思っていると。
「流石はブルクハルト殿とリュ───」
「誰が喋って良いっつったぁ! モロコシィ!」
「───」
厳ついフルプレート姿のモロコシが口を開いたので、迂闊に何か
喋らぬ様にその口を威圧で閉ざす。ったく此奴は……。モタモタ
してるとまた此奴が喋りだしそうだな。そう考えた俺は腰掛けた
柱跡から立ち上がり、遺跡跡地に存在する地下へ続く階段へ視線を
向け。
「んじゃとっと依頼品回収して帰ろ。」
三人の頷きを確認した俺は、先頭を歩いてダンジョンの中へ向か
う事に───
「………。」
冒険者四人が地下へと続く階段を降りて行く姿を、離れた場所
から見詰める何者かの姿。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遺跡跡地の地下。其処は所謂ダンジョンと呼ばれる物で、中は薄
暗く自分達の明かり、纏わせた火の蝶以外に見える光源は皆無。
何となく薄ら寒さすら感じる、メチャクチャに凝った雰囲気のダ
ンジョンだ。
「地下墓地って感じ~。」
壁に書かれた意味不明な象形文字らしきがまた良い味で、俺は
作り込まれたそれをなぞり呟きを一つ零す。
「此処は墓地ってよりも宝物庫に近いんじゃないか?」
「アタシもそう思う。アンデット系も出ないし。」
相棒と獣人っ子のリュゼは違う意見らしい。……言われて見れば
確かに此処ってアンデット系配置されて無いな。等と思っている
と前方から。
『……。』
ゴツゴツとした石の体を持ち、目なんて付いてない不気味な頭
っぽい物で、此方を“ジッ”と見詰める化け物。ゴーレム系モ
ンスターの登場だ。
あれは見た目通り物理攻撃の効き難い相手で、魔法等が良く通
るタイプ。見た所、ギリ中クラスと言った所か。まあ俺達の練
度なら苦戦する相手じゃあ無い。いっちょ準備運動と行こう
かね! 意気込む俺の側から“ドガンッ”等とデカイ発砲音が
響き。
『!』
「……。」
音の発生源は相棒が装備したショートバレルのショットガンから
で、そのまま彼はショットガンを一度横へ傾けるようにしては、
格好良くレバーアクションを起こし続けざまに
“ドガンッ! ドガンッ!”と撃ちながらゴーレムに近付き、容
赦なく高Lv属性弾をぶち当て怯むゴーレム君へ。
「……。」
『!!』
“ドンッ!”と最後の接射を持って、ゴーレムの巨体を吹き飛
ばす。見事粉々に成ったゴーレムに動く気配は無い。
「わーやる気満々じゃんブルブル。」
「今日は特に気合が入ってますな、ブルクハルト殿。」
リュゼとモロコシが呟き。
ショットガンをリロードしながら相棒が振り返り。
「ああ。この後に“大事な”予定が入ってるかなら。」
“ガチャンッ”とレバーアクションを一つ起しては、
言葉の一部分を強調しながら俺をチラリと見遣る相棒。
相棒はこの件を早く片付けて、俺に辛い事実を直視させる積りら
しい。無慈悲ッ!
くっそぉー冒険での現実逃避もそう長くは続かなそうだな。
その後も。やる気に溢れた相棒の所為、いやお陰で。ダンジョン
内も順調に進む事が出来て。
「お。この先でござるよ、回収品の場所は。」
回収依頼の付近まで来る事が出来た。
此処は危険度の高いフィールドなので、通常のフィールドとは違
い倒された場合には装備品と所持品のほぼ全てをその場に落とす
仕様になっている。
なのでこう言った依頼がある場合は、大抵が見学からの力不足で
アイテムドロップしてしまった。そんな哀れな冒険者からの依頼
が多い。しかし、中には例外もあったりする。
「! アレでござるなぁ! 回収はお任せを!」
「……。」
ダンジョン内の一本道の先。床に落ちた誰かの装備品らしきを見
付けたモロコシが、一直線に走り出す。それを止めずに眺める俺
は考える。今回のクエストはどーしても装備品を回収したい誰か
の願い故か、或いは嫌がらせのクエストか。もしくは……。
考えつつ眺める先。アイテムへモロコシが近付いた瞬間の事。
「ゲブラシャー!!?」
“ドゴォ!”っとデカイ爆発音と共に。意味不明な叫びを上げな
がらモロコシが打ち上げられては。
「ギヌッ!」
ダンジョンの天井にぶち当たってから床へと自由落下。
「っ! ……。………。」
そしてピクリともしないモロコシ。
哀れ、で笑える彼のその向こう。立ち上る煙から人影が覗き。
「まずは一匹~。」
「硬そうな奴がやられてラッキー!」
「てか此奴、あの演技勝負で引っ掛かった奴じゃね?」
俺達同様火の蝶を纏わせたPC三人が歩き出て来た。
多分PTだろうその三人は、倒れたモロコシをゲラゲラと笑いなが
ら見下ろしては、視線を此方へ向け。
「はぁ~いPKのお時間でぇーすっ。」
「あ、逃げようとしても無駄だから。後ろにもオレ達の仲間が控え
てっからさ。逃げ=即死な。」
「とりま……。命乞いとかします?」
好感の持てない笑みと安い言葉の羅列。
恐らく彼らはPVP解禁フィールドで、主にプレイヤーキルを専
門に楽しむ人種、PKと呼ばれる人達だな。
こう言った危険度が高く、PVP解禁フィールドでは当然他PC
は絶対敵! ……っと言う訳では無い。
当然だ、高難度に挑むは大概中堅かそれ以上。安易に仕掛け
ればお互い無事では済まないし、騒ぎを聴きつけ漁夫の利を
狙われては困る。なのでこう言ったフィールドでの他のPC
とは敵でも味方でも無い、正体不明の隣人と言った所に落ち
着く事が大体だ。
まあ大概が相手の隙を窺い、隙を見せれば容易く敵へ変わる
けどね。
だからこのゲームではPVP解禁フィールドはPVP専門と言う
よりは、普段のPVEからPVPVEと言った、PCも加わった緊張感
のある危険なフィールドと言う意味合いが強い。
そんなフィールドでPCだけを狙う人達を特にPKと呼び、彼
らはPVPフィールドで山賊や盗賊に近い存在だ。
「そう言うのは俺的にあり、ありなんだけどなぁ……。」
「あ?」
一歩前に出て呟く俺にPKの一人が反応を示す。
「いや、俺はPVPフィールドでのPKはありなの。こう、山賊とか盗
賊に襲われるって、ハプニングな感じがしてさ。」
「うわドMかよ。キショいなお前。」
「いやいやこう言うカモがオレらには大事だろ。」
「だな。」
PK三人がオレの話によく反応してくれる。
「でもこんなアホクエストで釣ってまで、ダンジョン奥でPKしてる
って事は、君たちPKに自信が無いか。有った自信を他のPKに折ら
れた口でしょー?」
「「「……。」」」
途端に薄ら笑いを消して押し黙る彼ら。お、図星かー。
彼らPKの中にも種類が別れてて。当初PVP解禁フィールドでは様
々な思惑を持ったPKが入り乱れていたけど、PVEとは違ったスリ
ル、磨いたテクニックの競い合い等を楽しみたいPK、純粋にPVP
を楽しみたい人達。そんな彼らは後のアプデで都市や大きな拠点
に追加されたコロシアムへ流れて行った。そっちには観客やラン
キングシステムに景品までもあるのだから、流れて当然だね。
オマケに倒されても装備品のドロップは無いし。
なのでPVPフィールドのPKは激減し。残ったのは攻略組で隙き
を窺い合うPCが殆ど。
それでも今もPVPフィールドでPKを行っているのは、マジで山
賊や盗賊ごっこ楽しんでる愉快な人達だけだ。彼らは自らの損
害を顧みず、PCと見れば狂喜して襲う狂犬。因みに本気の命乞
いをしたりすると見逃して貰えたりもして、面白い人達が多
い。
ま、コイツらはちげーな。
「PVPフィールドでマジに山賊や盗賊ごっこしてる人達って結構
強いからねぇ。それにこの辺りに居るのって戦闘に手を抜かな
いし、マナーも持ち合わせてる人達だから……。
君達みたいなプレイスタイルだと此処らはギルドも個人でもや
り辛いでしょ? そう言うプレイスタイルの人は最後“黒”に
行き着くもんだけど……。
どうやら君たちは“黒の方”までは行けないみたいだね。
まあ、半端な連中って感じぃ~?」
こんなクエストで釣ってまでPKしてる連中の質なんて分かりきっ
ている。装備品回収の依頼を出してPCを回収地点で待ち、回収に
来たPCを奇襲。装備品を奪われてはクエストクリアも、リベンジ
も到底無理で。そうなったが最後クエストキャンセル料まで奪わ
れてしまう。しかも今時これに引っ掛かるのは初心者や騙され易
い善良なPCだけだろうに。
全く、引く程悪質な事をしてる連中だぜ。許せんな。
「……お前うるせえな。アホなクエストに引っ掛かっておきな
がらよ。」
「マジでうぜえよ。」
「さっさと殺そうぜコイツ。」
おっとこの程度の煽りに良い反応だ。とは言え切っ掛けは
此方持ち。
「そう怒らないでよ。後引っ掛かったアホは其処に転がってる
奴だけだから。俺らはちゃんと分かって此処に来てる───よっ
と!」
言い終わると同時に俺は床へと伏せた。そんな俺の頭上から発砲
音が響き、前方に居たPK達へ銃弾が翔び往く、けど。
「「「!」」」
攻撃を警戒してた彼らは簡易シールドを展開し、攻撃の無効化を
図っていた。腐ってもPKしてる連中なので、反応だけは良い
様子。でも残念。
「「「!!?」」」
「(それはただの攻撃じゃあ無いんだなぁ!)」
彼らに放たれた銃弾がシールドに砕かれ、色の付いた煙が彼らの
周りに充満し始める。視界不良から、続く攻撃があるのか無いの
かを警戒し。どう動くべきかを逡巡している様子のPK達。
「───サモン・アンデット。」
そんな彼らを他所に俺の背後から小さな声が響く。
彼らから姿を背で隠し、言葉を持って時間を稼いだ甲斐もあり。
コッソリ準備の終えたリュゼが召喚スクロールを使用したのだ。
『………。』
地面に魔法陣のエフェクトが出現し、陣の中央からモンスター
が藻掻くように出現。その体は人の二倍は大きく、そして腐敗
して居た。
リュゼの召喚物が顕現し終わる前に俺は立ち上がり、召喚酔い
を起しているリュゼを抱え、序に二人の火蝶を散らし。相棒が
待機するダンジョンの壁際へ素早く移動。
俺が側に来た事を確認した相棒は自分の火蝶を散らし、片手を
そっとダンジョンの床へ着け。スニーキングスキルを発動。
手を着けた床から波紋が広がり相棒は勿論それは俺達をも包み
込む。そうして相棒のスキル効果を共有してもらった俺とリュ
ゼは効果範囲で“ジッ”としながら、視線を煙の中のPK達へ。
「煙幕で逃げ切れ───」
攻撃は無いと分かり、逃亡を許すまいと焦ったのか。煙から無
謀にも飛び出したPKの一人が。
「───!?」
『ァァァア……。』
召喚されたアンデットモンスター。それが手にしていた折れた直
剣にその身を貫かれてしまう。腐った体に折れた直剣を片手に持
つアンデットモンスターは、折れた直剣をPKの体から引き抜き。
「く、そっ!」
不運にも一撃でライフを瀕死まで持ってかれたらしいPKの一人
は膝を付き。
『ァァァアアア!』
「! ……───」
そんな彼目がけ無慈悲に直剣が振り下ろされては、PKがダウン。
やがて煙も薄れ、残りのPK達の姿がハッキリ現れると。
『ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「「!?」」
残りのPK達を視認した中ボスモンスターが、モンスターらしく
彼らへ襲いかかる。
彼らが受けた色付きの煙はただの煙幕ではなく、モンスターに
狙われ続ける類の効果、所謂ヘイトアップ付きだ。なのでー。
「(おーおー追われとる追われとる。)」
タイプ指定の無いヘイトアップだから効力はそこまでじゃ無い
けど、それでもこの狭い範囲に二人だけとも成れば十分な効果
だね。
視線の先ではPK二人の慌てふためく姿が繰り広げられている。
今の俺やリュゼは相棒のスニーキングスキルの範囲内で息を殺し
ているので、中ボスに襲われる心配は無いし。
「くそ! アイツら何処に!」
「それよりもどうすんだよ!」
勿論探してる余裕の無い彼らにも見付かる事は無いはず。
索敵スキル使う暇も無さそうだし大丈夫っぽい。そう考える俺
の耳に。
「ねね、アイツら勝てると思う?」
リュゼが小声で尋ねて来た。俺は視線をPK達に向けながら。
「チラッと見えた装備を考えれば、冷静に対処すればギリ行ける
かもなー。」
「じゃそこ襲うの? でもアタシこの距離で戦力になるか分かん
ないから、全力で逃げるよ?」
そこは“退く”とかじゃあ無いんだね。まあ良いけど。
俺がそんな必要は無いと言うより早く、相棒が口を開き。
「大丈夫だろう。一人欠いた状態に加えあれじゃ、その必要も
無い。」
「っと、相棒の言う通り。なので今暫く静観でよろしく。」
「はーい。」
リュゼが言った様にアレで倒せないなら俺らがって計画も考え
てたけど。
「! ……───」
「こ、このっ!」
『ァァァアアアアア!』
リアルパニック状態のPK二人───っと一人倒されたな。
残った一人は逃げ出した様子だけど……。
『アアアアアアアアア!』
「っ!? ……───」
少し離れた所でアンデットモンスターに追いつかれ、敢え無く
ダウン。PKPTは全滅となり。
『ァァ……。……アアアァァ。』
「「「………。」」」
転がる四人のPC達の側を中ボスが間徘徊し、黙ってそれを見詰
めている俺ら。今回召喚したアレは、召喚した側も攻撃対象に
含まれているからね。
もっと召喚に時間を掛けて貰えば使役状態で呼び出す事も出来
たが、今回はスピード重視での召喚を頼んだので仕方無い。
やがて。見詰める先の中ボスは潜む俺達に気が付かず。
『ア、ァァァ、ア、ア、ァァァ……。』
そのままダンジョンの奥、暗がりへと移動して行く。
隠密的スリルを味わう俺を他所に、暗闇へ去ったモンスターの気
配をリュゼと相棒が耳を立てて察知し、相棒がリュゼへアイコン
タクトを確認。相棒もリュゼも気配察知系に優れているけど、こ
う言った閉所ではリュゼの方が得意だ。
少しして相棒のアイコンタクトにリュゼが頷く。すると相棒は指
“パチンッ!”と一度鳴らし。張ったスニーキングスキルを解除。
解除と同時に俺は立ち上がって伸びをしつつ。
「ふぃー……上手く行ったな。相棒。」
「ああ。今回の相手が手練じゃなくて助かった。」
「ほんそれ。パニック狙いだけで済んで幸いー。」
互いに作戦が上手く行った事を喜び合う。
「ん? あれ?リュゼは?」
「リュゼならスキル解除と同時に……。ほら。」
相棒が指差した方向は少し離れた場所で、其処には倒れたPKと。
側にリュゼの姿が見え、リュゼは倒れるPKに何かを施しては、
その手前のPK。そして最後に突進して来たPKにも同じ行動を施
してから此方に戻り。
「瀕死状態まで蘇生しといたよ。」
「ナイス手際。でも何でモロコシは起こさねーの?」
「ウザいから。」
「辛辣ー……。」
仲間同士の辛辣な言葉も対して気にせず、俺は初っ端トラップ
に引っ掛かった甲冑の男。床に倒れ伏すモロコシへ簡易蘇生ア
イテムを使用、したが。必要ないと表示される。って事は。
「おい。寝たふりすんな。」
転がるモロコシを一度蹴飛ばす。
「……はっ! 拙者は一体?」
「何だそれ。寝てただけなら近場の状況も分かるだろ。」
「いやぁ音は濁り、視界も固定されてボヤケてては早々分かりま
せんぞ。」
「ああスタン状態だったのか。よく考えたらその装備でダウンも
瀕死も無いわな。スタン、ダウン状態じゃ仕方ないな。情報を与
えない為の仕様効果だし。」
「その通り。気絶故致し方なしだったのでござ候。決して、決し
て腰など引けていなかったですからね?」
コイツ。さてはリアルスタンだったんじゃ……?
一瞬問いただそうとも思ったけど、どうでもいいと思った俺は
スタンらしきから回復したモロコシにPKの事などを軽く説明し
た後。
「って訳だから。回復したならダンジョン入り口の見張りを
よろ。」
「? 必要なので?」
「ああ。他にコイツらの仲間が居ないとも限らないし、後ろ
から別のPCに奇襲されても困るからね。モロコシにはその
見張りを頼みたいのよ。よか?」
「成る程。承知でござる。」
「何か遭ったら直ぐに連絡飛ばして来れ。彼らとクエストの交渉
が済んだら此方からも連絡するからさ。」
頷いたモロコシがフルフェイスの兜を直し。ダンジョンの入り口
を目指してその場を去って行く。これでよしっと。
「んしょっ。……あれ? アイツは仲間外れ?」
遠くに離れ倒れて居たPKを、此方まで引きずって来たリュゼが
尋ねる。
「おい言い方! 別にそうじゃ、そうじゃないんだけどー……。」
「っ。此奴が言いたいのは。」
同じ様にPKを運んできた相棒が、三人並ぶように置いては。
「此奴が言いたいのは玉蜀黍は一般的善良プレイヤーで、ある意
味アレは真っ白だ。だからこれからの話しに付き合わせちまう
のは色々と思う。って所か?」
「そそ。」
俺の言いたい事を代弁してくれた。
「ふーん? アイツ事態の言動が善良かは疑問だけどねー。
でもそっか。それ抜きに考えてもアイツの所属先が“アレ”だ
もんね。あ、それ含めてアイツが───まいっか。アタシに関
係ないし。」
何かを察したらしいリュゼだが、俺は別にモロコシの所属先の
事は気にしてないんだけどね。だからそれ以上は何も言わず。
並び倒れるPKの側へ近付き、彼らの頭付近でしゃがみ込ん
では。
「それじゃあ。楽しい楽しい交渉と行こうか。」
「「「………。」」」
瀕死のPK達が此方を見上げ、彼らに俺はニッコリと笑って
見せる───
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