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「海を飼う妹」
◆海を飼う妹
妹は、部屋の中で「海」を飼っている。
海は、大き過ぎて邪魔だと思うのだが、
妹は満足げに海に餌をやっている。
海と言っても、本当の海ほど大きくはない。
径二メートルほどの球体だ。
部屋の中心にふわふわと浮かんでいる。
その球体が海であることを示すように、
海藻が揺らめいていたり、時折、小さな魚が横切っていく。
だからと言って、部屋に入れていいものではない。
おかげで妹のパジャマやベッドはいつも濡れている。
海の飛沫が辺りに飛ぶからだ。
それが原因なのか、TVゲーム機器もよくフリーズするらしい。
飼い主である妹も、時々海の中で溺れている。
海には潮の満ち引きのようなものがあるらしい。
と言っても、
球体が大きく膨らんだり、小さくなったりする。それだけのことだ。
妹は潮が満ちている時、海の中に入り込み、
楽しそうに泳いでいる。
だが、その光景は溺れているようにしか見えない。
妹は、そんな海を飼うことが楽しいらしく、
海は最近太り気味だの、
言う事を聞かなくなっただの、
家族の食卓で毎日のように海について夢中に話している。
海は生き物ではない・・
けれど、妹は海を犬や猫のように語る。
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