「海を飼う妹」

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兄である僕はそんな妹を放ってはおけないので、 妹が学校に行っている間、部屋に入り、 浮かぶ海を避けながら、 妹の机までたどり着く。 よくこんな所で生活ができるなと思いながらも、 妹の鞄に手紙を入れる。 兄として妹が人の道を誤らないように、 きっちり指導しなければならないからだ。 ・・誰も海なんて飼わない。 海が家の中にいる場合はいいが、 万が一、外に出たりしたら、他人に迷惑をかけることになる。 僕の手紙を読んでくれているのかどうか分からないが、 海は犬猫などのペットみたいに死ぬことはないから、 妹が悲しむことはないと思うと少し安心した。 けれど、海がペットである限り、 人間と同じように、 いつか、お別れが来る。 ある日、大きくなり過ぎた海は、 ついに部屋の外まで溢れ出した。 部屋に入り切らなくなったのだ。 海は飼い主である妹の情が移っているのだろうか、 廊下の障害物を避けながら移動している。 きっと妹の躾がいいのだろう。 慌てだした妹は膨らんだ海を、 何とか手繰り寄せながら部屋の中に戻そうとする。 だがそれは儚い努力に見えた。 それでも妹は泣きもせず、海を留めようとしている。 その光景は、 海を抱き締めてるように、頬ずりするように、 話しかけているように見えた。 いつのまにかこんなに大きくなって・・ そう言っているようだった。
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