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そのあと、
「神様、ごめんなさい」
彼女がそう言うと、二人で檸檬を賽銭箱の上に置いた
少し、沈黙が続いたが
二人で何かの秘密を共有できた
それは確かなことに思えた
そして、彼女は僕を見て
「なんや、こんなの何でもないことやわ」と言って微笑んだ
「そうやろ」
レモンを置き去りにして参道を歩き始めた瞬間、
何かが落ちた・・いや、何かが変わってしまった・・
僕の心の中で、おそらく彼女の心の中でも
境内の中を風が抜けていくのと同時に
僕たちの小さな冒険心は遠くに運び去られたようだった
そう思うのと同時に鳥居の向こうに参拝客の人たちが現れた
慌てた僕たちは参道を走り神社を去った
何か悪いことをした人のように
でも少し笑いが込み上げてきた・・おそらく彼女も
ああ、梶井基次郎の「檸檬」の主人公のようだ・・
帰り際に彼女が「さっきのレモン、もったいなかったなあ・・
食べといた方がよかったような気がする」
そうポツリと言った
「食べていたら、神社に置いていけないだろ」
とは言わずに僕は微笑んだ
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