「水溜りの少女」

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「水溜りの少女」

0124f478-2adc-4ab0-a9cc-ddb7c131c5ca                            (フリー画像) ◆水溜りの少女 雨上がりの午後 赤いランドセルを背負った少女が、 水溜りを飛び越えていた。 一度、飛び越えては、また飛んで、 そんな繰り返しを楽しんでいた。 枯葉が浮かんだ水溜りの水面は、 鏡のように空を映し、 雲と木々の葉を映していたが、 少女の姿は映っていなかった。 この子は幽霊なのか?  そう思うと、 気の毒に思われたが、 少女が楽しそうに跳んでいたので、 そう思わないであげることにした。 少女も自分を幽霊だと思われたくないだろう。 それから、街角のコンビニに入ると、 さっきの少女が万引きをしていた。 幽霊なのにどうして万引きができるのかわからないが、 少女はお菓子を二つ手にして、 小さなポケットにしまい込んだ。 幽霊の少女と目が合ったが、 店の人には言わないでおいた。 帰り道、公園を通り過ぎようとすると、 「たすけて・・」という声が聞こえた。 さっきの幽霊の少女だ。 すべり台で遊んでいたのだろうか? 少女の服が、手摺りに引っかかって身動きがとれないでいる。 少女のポケットからは万引きしたお菓子がこぼれ落ちそうになっていた。 少女を助けてあげると、 少女は、何も言わずに盗んだお菓子の二つの内、一つをくれた。 万引きはいけないことだ、 今度は、僕が買ってあげる、と言っておいたのだが、 約束は守ってくれるだろうか? 雨が上がったあとの道は、 地面からふわふわと蒸気が立ち昇る。 そんな空気が幽霊という存在をこの世界に映しだすのだろうか。 鏡面のような水溜りを覗き込むと、 少女が向う側の空で水溜りを飛び越えているのが見えた。 こちら側には少女はいないので、 少女は、現世を彷徨うことなく、向こう側に行ったのだと思った。 少し寂しい気がしたが、 少女は前より楽しそうに跳んでいた。 そして、こちらを見てニコリと微笑んだ。 あれから、コンビニに行く時には また少女に会える気がして、 同じお菓子を二つ買うようになったのを、 少女は笑うだろうか。 (了)
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