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アチラのお医者さんと光るトカゲ10
「それで?あの子はどうなったんです?まさか渡しちゃったんですか?」
「いえ。もちろんそんなことはしませんよ。そんなトカゲはいない、とつっぱねてやりました。患者様の個人情報を教えるわけがありません。まがりなりにもここは医療機関ですからね。……ほら、ここにこうして」
先生は棚の引き出しの一つを開けると、トカゲがちょろっと顔を出した。
「この簡易宿泊棚も古いから、おしゃれな透明キャビネットにでも買い替えようかと思っていたんですけど、こういうことがあるならやっぱり中が見えない方がいいですねえ」
トカゲはぼくを見ると、うれしそうにシッポをふって飛んできた。
「こらこら、まだ飛ぶには早い。傷が広がるじゃないですか。医者の言うことにはしたがいなさい」
ぼくが手のひらを開くと、そこにちょこんと乗って見つめてくる。
「……この子に、名前はあるんでしょうか?」
「どうでしょう?同じ仲間のトカゲ同士で呼びあうときの名前はあるかもしれませんが、それはわたしたちには聞き取ることのできないものでしょうね」
ぼくはトカゲをじっと見たあと、おもいきって先生に言ってみた。
「——ぼくがこの子になにか名前を付けてあげてもいいでしょうか?」
「それはわたしに聞くことではありませんね。彼の許可がいることです。あなたが名前をつけるとして、それを彼自身が受け入れるかどうかでしょうね。なにかいい名前があるのなら、ためしに呼んでみてあげたらどうですか?」
ぼくは実は昨日、寝ながらこの子の名前をずっと考えてたんだ。そしてぴったりのを見つけていた。
ぼくは手のひらの子に「ジェームス」ってささやいてみた。
そしたらトカゲはシッポをふるわせ、炎を花火のように出した。
「どうやらお気に召したようですね」
ぼくはジェームスをなでながら、先生に聞いた。
「なんでさっきの人はこの子を探しに来たのでしょう?」
「さてねえ。ハネツキギンイロトカゲはアチラでも別にめずらしい種類というわけでもありませんしねえ。確かに数自体は少ないですけど、食べたからといって、なにかいちじるしい薬効があるわけでもないしね。ほかの、例えばグリフィン型のオオトラトカゲならペットとしての愛好者もいるでしょうけど、ふつうハネツキギンイロトカゲは売り物としての価値はありません。いったいなにがねらいでしょうか?
それに、この診療所に彼がいることをどうやって知ったのかも謎です。我々は患者情報を外にはもらしませんし。……あなたは彼のことをだれかに話しましたか?」
「いいえ。だれにも……あっ、ここの待合室で会ったおじいさんにはちょっと話しましたけど」
「ハクオウじいさんですか?あの人はうちの長い患者さんですけどね。なんの害もないモノですよ」
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