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アチラのお医者さんと光るトカゲ11
「そうですか」
ぼくが失礼なことを言っちゃったかと少し下を向くと、先生は気を取りなすように
「まあ細かい事情についてはおいおい分かることでしょう……ところでどうです、ごいっしょに。わたしは今からおそい朝食をとるのですが、なにか召し上がりませんか?」
「ありがとうございます。でも家でおにぎりを食べてきたばっかりだから……それにいまから昨日落としたキーホルダーを探しに図書館の方に行ってこなきゃいけないんです」
「そうですか、それは残念。じゃあ気を付けて行ってらしてください」
ぼくはジェームスを棚のなかにもどすと(そのときこの子はちょっとさびしげな声を出したよ。鈴みたいな。かわいいやつだ)先生とヨシノさんにお別れを言って診療所を出た。
ドアを閉めるときにヨシノさんの「だいじょうぶでしょうか?」という声が聞こえたけど、なんのことだろう。
ぼくは招き猫のキーホルダーを探しながら図書館まで自転車をおして歩いて行った。結局、とちゅうの道では見つからなかったけど、図書館に着いて司書のおねえさんに聞いたら落とし物として届いていたからよかった。
ぼくはキーホルダーをリュックに取れないようにきちんとつけなおすと、かえり道、せっかくだからきのうジェームスを見つけた場所に寄ってみることにした。なにかジェームスのことでわかる手がかりがあるかもしれない。
それでまた池のまわりをぐるっと回って公園の茂みの中をのぞいてみたけど、なにもかわってるところはなかった。
「なーんだ、なにもないや」
そう思ってふりかえると、さっきのんのん先生の診療所で会ったばかりの牛みたいな男の人が立っていた。ぼくはびっくりして声も出なかった。
男は気の荒い目でぼくをじろじろ見回すと
「おまえ、さっき、のんのんのところにいたやつだな?人間のくせに俺が見えるんだな」
鼻息あらく
「さてはあのハネツキトカゲをのんのんのところに連れていった人間っていうのはお前か?余計なことしやがって。コチラモノがアチラのことに首つっこむんじゃねえ」
とツバを飛ばした。
べつに首を突っ込む気はなかった、と言いたいところだったけど、こわくて声も出ない。
「やっぱりあのトカゲはのんのんのところにいるんだな?」
思わずあとずさろうとするぼくを逃がさないようにシャツの襟首をつかむと、乱暴に引っ張った。すごい力だ。つりさげられちゃう。
「そんな、逃げなくたっていいだろう?せっかく顔見知りになったんだ」
ニヤニヤしながら荒い息を吐く。
ぼくはおもいきって
「たすけて〜」とさけんだ。
むこうの方に犬の散歩をさせているおばさんのすがたが見えたんだ。声は小っちゃく、かすれかすれだったけど、それでも精一杯の声だった。あのおばさんじゃちょっと無理でも、だれかほかの人、警察にでもなんでも助けを呼んでもらえると思った。
なのにおばさんったら、こっちの方を見てるはずなのに知らんぷりを決めこんで、のんきに犬のリードを引っぱってる。
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