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アチラのお医者さんと光るトカゲ12
「たすけてー!」
と今度はもっと大きな声でさけんでも、やっぱり無視された。
「もっと大声で呼んでくれたっていいぜ」
男はニヤニヤ笑いをうかべながら
「あきらめろ。おれたちとかかわっているときは、お前のすがたもコチラモノには見ることも聞くこともできない。さけぶだけつかれるってもんだ。……そうだ、お前と引き換えにしてあのトカゲを手に入れよう。のんのんもそれなら言うことを聞くだろう」
男はぼくを片手でぶら下げて、勝手に考えごとをブツブツつぶやいた。
「逃げられると面倒だから、足の骨でも一本、折っとくか?」
こわいことを言い出した。
ぼくがのがれようと手と足を必死にじたばたさせると、その手が男の中折れ帽のツバにあたって落ちた。
なんと!その男のもじゃもじゃヘアーからはニョキっと二本、牛みたいなツノが出ていた。
男は平然とした顔で
「それより一口かじっといた方が早いかな?まだ朝飯も食ってないしなあ」
どうしよう、どうしたらいい?アタマが恐怖でまっしろになったそのとき
「ちょっと、あなた!いったいこどもになにしてるの!?」
声を上げてくれた人がいた。
見ると、あの看護士のヨシノさんが白衣に紺のカーディガンをはおったすがたで、こっちにかけよってきてくれている。ものすごく怒った顔だ。
ただ、もちろん来てくれたのはうれしかったけど、ヨシノさんはけっして大きくない、むしろ華奢な女性だ。こっちはぶっといプロレスラーみたいな大男なのに、どうやって助けてくれるんだろう?
「うるせえ、このアマ!ひっこんでろ!」
なんてひどい奴だ!女の人の顔をぶった!……と思ったら、男のふりまわした右腕は宙を切っていた。
あれ?どういうことだ?
なんと、ヨシノさんの首が抜けている!耳が翼になって首だけがヒラヒラと飛んでいる。
「あなた、なんてことをするのよ!」
ヨシノさん(の首)は直降下して、男のパンチパーマの頭、ツノとツノの間にかぶりついた。
「ぎゃっ!」
男は走りまわってヨシノさん(の首)をひっぺがそうとするが、ヨシノさんはかぶりついたまま離れない。
その間に(胴体の)ヨシノさんがぼくを保護するようにしながら避難させる。
——なんじゃこりゃ?ツノのある男が首だけの女の人に頭をかまれて逃げまどい、ぼくはその残った胴体に誘導されて避難している。
なのに、あのベンチに座ったサラリーマンの男の人はそれに何も気づかず、ケータイで愛想よく電話してるんだ。
まるでぼくまで、もう死んでる幽霊かなにかになっちゃったみたいだ!
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