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アチラのお医者さんと光るトカゲ14
のんのん先生とぼくは、かむの川ぞいを歩いていった。
先生は白衣をぬいで赤白のボーダーシャツにジーパンの格好。
金髪だし目立つ。
「やあ、気候も良くなりましたね。ここのところ診療所につめていたんで気持ちがいいです。花もきれいです。藤川さんはまだかむのに来て、間(ま)がないんでしたね」
「はい」
「いろいろなところがありますから、ぜひ紹介してまわってあげたいですね。特にあなたの場合、それが必要となるでしょうから」
よく意味が分からなかったけど、なんとなくテキトウにうなずいているうちに川ぞいの公園についた。
桜の花はもうだいぶん咲きそろって、とてもきれいだ。
見るとその中でも大きい木の下に、きのう診療所の待合室で会ったおじいさんが杖をついて、ぽつねんと立っていた。
「やあ、ハクオウじいさん。ひさしぶりですね」
「うん……?ああ、のんのん先生かね。ひさしぶりだね、会ったのは去年の冬以来かい?」
「そうですね、それぐらいになる。どうですか、神経痛の具合は?」
「うん?まあ、ぼちぼちってところかな。なにせ年だからなあ、方々にガタがきても仕方ないんだが、今年も春が来たからな、まあこうやってがんばっとるんだわ」
そうやって桜を見上げた。
「今年もきれいに咲いてるじゃないですか」
「まあ、なんとかな。でももう、そろそろ寿命だわ。すっかり弱っちまって、虫とかの害にも耐えられんようなってきた。来年はどうなるかわからんよ」
「そんなこと言わずにまた来年もがんばってくださいよ。お薬持ってきましたから」
「ああ、ありがとう。なんも言っとらんのに年寄りに気を使ってもらって」
そして先生のそばに立っているぼくを見ると
「なんだい、この子?わしのことが見えとるようじゃないか」
なんだ、このおじいさん?
きのうおしゃべりしたばっかりなのに、もうぼくのことわかんないのか。
ボケちゃってるの?
「おぼえがありませんか、彼に?」
「うん?いや、ないな。まあ最近は物おぼえが悪くなったから、会っとっても自信がないが……」
「そうですか……。いや、ならいいんです。またわるいところでもあったら診療所にいらしてください」
「ああ、ありがとうよ。先生」
おじいさんはまた桜の木を見上げた。
その立ちすがた自体がまるで一本の木のように見えた。
先生とぼくは公園をはなれた。
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